第二十章 ―見つけた…―

「っく…しん…しん…しぃん……。」


小さな声で神の名前を呼び続ける聖人…。

ふと、自分に大きな影がさし、そっと顔をあげた…。


「見つけた…心配かけさせんな聖人。」


そこには、会いたくて傍に居て欲しかった人がそこにいた…。


「神………神っ。」


ぎゅっと神に抱きつく聖人…その姿は親に迎えに来てもらった子供の様な姿であった…。


「なんだぁ聖人、淋しかったのか?」

「ちがっ…でも、ずっと光も音もない世界にいたから自分の存在が何なのかも解らなくなってきたから……。」


孤独の世界に取り残された…そんな感覚を覚えたと聖人は語る…。


「聖人…今、お前の夢の世界にいる…。」

「夢の世界…?」

「あぁ…だから現実の世界に戻るにはお前の意思が必要になる…。最も俺達は雑記帳に吸い込まれてきたから出口が違うかもしれないがな…。」

「…俺…達……?」


ここには神しかいないのに神は達と言った…神以外の誰が来たというのだろうか?


「…聖人…ここには翔と優も来ている…逸れて会えないんだがな…。」


心配そうな顔を空に向ける神……。


「翔と優も…? な、何で…?」

いきなり親友の名前が出てきて驚きを隠せない聖人。


「お前の事が心配だからだろ?」

「神……オレ…凄い迷惑…かけてるよな…翔にも優にも…。」

自分を責め続ける聖人を神は優しく抱きしめる…。


「なぁ聖人…迷惑だなんて誰も思っていない…だってヒトは一人では生きていけないからな…誰かに迷惑かけたり、助けたり…そういう事を繰り返してヒトは成長していくし、先に進めるんだ…助けてもらった…そう感じるなら今度はお前が助けてやればいい、互いに支えあっているから『人』は成り立つのだから……。」


神の言葉は聖人の心に深く刻み込まれた……――。


「神……オレ、帰りたい…皆の所に…神の所に…。」

「あぁ…帰ろう…俺達の世界に……。


神の手を借りて聖人は立ち上がる、二人は空を見上げ自分達の世界に帰る決心をする……。


「戻るのですね、神……。」


不意に声をかけられた…。

そこには空を見上げる数秒前にはいなかった、神の高祖母、灯の姿があった……。


「はい、やっと捜しモノが見つかったので…。」

笑顔で答える神に対し、状況の掴めない聖人。


「神……誰?」

「あぁ、お前は初めてだったな・・・聖人、こちらは俺の高祖母にあたる方だ…曾高祖母様、コイツが俺の捜していた大事なヤツ…河童一族の禁忌の青年です。」

「え!? 神のひいひいおばあちゃん? えっと初めまして、河流 聖人です。」

急な紹介に驚きながらも挨拶をする聖人。

「初めまして聖人君、私は霧咲 灯、この姿では神の高祖母だなんて信じがたいわね…二人とも聞きなさい、私はここに貴方達を元の世界に帰すために来たの…さ、ついて来なさい…。」

灯が先頭をきって歩き出し、二人は大人しく着いて行く…。

2~3分程歩いた所に小さな祠があった…そこには一人の青年が立っている……。


「小助さん、お待たせ致しました。」

「灯さん、お疲れ様です…さ、もう時間がありません! 急ぎましょう!!」


祠の扉を開くと眩い光が込められている……。


「し…神……。」

不安気な表情を隠せない聖人…。

「大丈夫だ、聖人…このヒトはお前と同じ禁忌の青年なんだよ。お前の先祖にあたる方だ…。」

「え? このヒトも…オレと…同じ…先祖……?」

「もう、青年って年でもないけどね…聖人君、君は恵まれている…ボクの時は灯さん以外の人間はボクと関わろうともして下さらなかった…だから…君は生きなければならない…支えてくれる人の為にも、君を待ち、心配し続ける友の為にも…。」


「…はい……オレは…今ある人生を真っ当に生きたいと思います…。やっと解ったから…オレは独りじゃないって…オレの傍にも誰かがいてくれているのだって…。」

「それが解れば大丈夫…君は大丈夫だから…。」


小助の優しい微笑みを受け、祠の光に吸い込まれていく二人…。


「大丈夫…貴方の友達も、もう現実世界に戻っているわ…。」

「はい、色々とありがとうございました……。」


眩しくて暖かい光の中に吸い込まれ、意識を手放す神と聖人……――。


最後に二人から『大丈夫』と言われて安心したのか聖人は自分の生きるという事を知った気がした……。


「…と……さと………聖人っ!!」


「う……ん……。」


「聖人!? 目が覚めたの?」


オレは、翔と優の叫び声で目を覚ました……。


「翔…優……?」

重たい身体を支えて起き上がろうとする…。

「っ…ははっ…戻って来てる……?」

現実世界に戻ってきていると実感し、思わず笑いがこみ上げる…。


「なぁ~にが戻って来てるだ…お前、三日間も目を覚まさなかったんだぞ?」

「三日間…?」

「うん、聖人の世界から戻ってきたのに、聖人は全然起きなかったんだよ……だから…だから僕達凄い心配したんだよ!!」


翔と優の顔を見て、二人はずっと傍にいてくれたのだと解る…。


「……そうだったのか…悪ぃ…。」

申しわけなくて自分が嫌いになる……。

「起きたのか? 聖人…。」

コーヒーをいれたカップ3つと、ホットミルクの入ったカップ1つを持って部屋に入る神…。

「神……オレ………。」

何が言いたいのか言葉がまとまらなくて、神の名前しか呼べない…。


「聖人…おかえり……。」

「え!?」

「おかえり、聖人!!」

「おかえりなさい、聖人…。」

「皆…えっと…ただいま……?」

「何で『?』がつくんだよ!!」

「帰ってきたら『ただいま』だよ、聖人」

「そっか……そうだよな……ただいま!!」


やっと聖人が帰って来た…神達の元へ……。

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