第九章 ―思い出―

聖人はいつだって他人と距離をおこうとした…。

それは…オレに対してもそうだったし、優に対してもそうだった…。


『何で距離を置こうとするわけ?』

『別に……他人と関わってオレのこの先に大きい変化がないからだよ』

『それって…寂しくないですか?』

『……それがオレの普通だし……。』


聖人は・・・苦しい時に苦しいと言えない子だった…。

僕も人の事は言えないけど、誰かにすがりたいって時には翔を頼った…。


『いつも一緒だもんな…お前ら……。』

『お前は一人っ子なの?』

『いや、一歳の弟と一つ下に妹がいる…オレは家族で仲間はずれだから……。』

『仲間はずれ?』

『オレ………河童一族の禁忌の子だから…。』

『『え…?』』

『あれ? 知らない? まぁ絶滅品種だから貴重みたいだけどな。』

『それでお前の仲間はずれとどう関係するんだよ。』

『だから、禁忌の子なんだって。』

『でも…それっておかしいじゃないですか…?』

『そういうものなわけ? よくわかんないんだよね…オレ、家族の愛情とかって知らないし………。』



普通にさらりと言っていた聖人に驚いた………。



愛情がなんだか分からない…家族で仲間はずれ…どれも…僕の想像の範囲を越えていたから……。



『まぁ、オレも人の事あんまり言えない事情だけどさ、優の母さんに会って初めて知ったんだぜ?』

『今からでも遅くないよ!! 僕達…分かり合えると思うんだ…。』

『分かり合う…? お前ら変わってるのな…普通はオレの事利用するか避けるかのどっちかだぜ?』



『『だって、友達じゃん!!』』



『……とも…だち……?』

『そう、友達……。』

『僕達は友達です!! 大切な…大事な友達です。』

『お前らやっぱ変だわ…ははっ……。』


あの時初めて聖人の笑顔を見た……その笑顔を幼いながらも守りたいってそう思ったんだ……。


あの時、少しでも聖人の辛さを背負ってあげられたらって…そう思った…。



「…翔……。」

「優も思い出したのか?」

「うん……初めて聖人に会った小学6年生の時の事……。」

「アイツ…変わったよな……。」

「翔もね……あの時聖人に出会ってなかったら、翔は今も荒れていたかもしれないよね……。」

「あぁ……優の事毎日泣かして…自分も他人も傷つける生活を送っていた気がするよ………。」



決して消える事のない心の…身体の傷……。



『翔っ!! オレがいる…オレはお前の前から消えたりしないし、お前を傷つけたりしない……お前の辛い所は一緒に背負ってやる!! …だから逃げんなっ!!』



周りの視線に怯えて前へ出ることの出来なかったあの頃・・・・・・



『優…立ち止まったっていいんだ…ゆっくりでいい…自分のペースで歩いてくればいいんだ…オレは待ってるから…ちゃんと待ってるから…一人で歩けなくなったら呼べばいい…そしたら戻ってきて一緒に歩いてやるから…だから…スタート地点に立たなきゃ始まらないんだ……来いよ…光の先に…。』


もし聖人に出会わなかったら…オレはこの世にいなかったかもしれない…。


もし…聖人が僕の前に現れてくれなかったら…きっと今の僕はいない…。



だから…助けなきゃいけないんだ…。


それが…オレの…僕の…恩返しになるから………。



アイツは…決して大人になりきれない子供だった……。


初めて会った時は冗談半分だった…このご時世にまだ河童一族の生き残りがいて、しかも禁忌の子供が大きく成長している姿を目にしたのだから…興味半分、冗談半分…俺の血が騒いだ……俺の中に流れる河童狩り一族の血が……。


だから声をかけた……でも…本気になったのは俺の方だった……。


『どうしてアンタはオレに興味をもったんだ?』

『あ? 面白そうだからww』

『アンタ河童狩り一族なんだろ? オレはアンタの敵になるんだけどな…。』

『お前は皿がねぇからいいんだよ。』

『皿があったらお終いかよ……。』

『ま、表立っての狩りは禁止されてるからわからねぇけどな…。』


最初から狩るつもりにはならなかった…なぜだかは分からないが一緒にいなきゃいけない気がした……本能的に………。


「その理由が…灯さんの日記と大きく関わっていたとはな……。」


灯さんが救えなかったあの青年の生まれ変わり…聖人…だが、青年の名前はどこにも記されていない……。

本当に聖人は生まれ変わりなのだろうか………?

だが、俺が聖人と出会っている事…聖人が禁忌の子だという事…そして…俺の先祖が灯さんで、灯さんの出会った青年が聖人と近い年齢である事……。


「偶然にしては出来すぎているだろ……。」



なぁ聖人……お前は自分の居場所を探してずっと迷路の中にいた……。

でも、お前が今まで危険に巻き込まれなかったのは…血がそうさせているのかもしれない…だけど……それだけじゃない…お前の周りには傍にいてくれる『友』がいる……。



聖人…俺は絶対にお前を救ってみせる……たとえそれが困難な道であっても…

俺の一族にとって致命的な事になったとしても……。



聖人……お前の居場所はちゃんとここにある…だから…帰って来い…。

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