第八章 ―神の知る過去・・・―

「……俺の一族の人間に、かつて禁忌の子を助けたとして処刑された人がいた…俺の先祖にあたる人だな……きっと……優しすぎたんだ……。」


そう……一族の中で心優しい人だったらしいから……。


「何で……何で処刑されたんだ?」

「子供を助けたって……たったそれだけで?」

「……あぁ、当時じゃ徳川への裏切り行為だからな…17世紀の西洋だったら魔女狩りだとか言って火あぶりとかだぜ? 普通に罪人として扱われて死刑台に送られたよ…・・。」


そう……さも当然のようにな……。


「間違ってる……そんなのおかしいだろっ!?」

「…翔……。」

「あぁ、だがその間違っている事に誰も何も言わなかった現状だ…。」

「それで…先生の祖先の方は……?」

「彼女は……俺の高祖母にあたる方だった…名前を霧咲 灯といった…。」

「霧咲…? 如月じゃねぇのかよ。」

「如月は母方の姓だからな…霧咲は河童狩り一族の名だ…「霧咲」じゃあ聞えはいいかもしれないが元を正すと「切り裂き」…切り裂きジャックの事と同じさ…。」

「どうしてお母様の方の姓に変わったんですか?」

「灯さんが、幕府を脅かす犯罪者になったからだ…。」

「それって最初に言っていた禁忌の子を生かそうとしたっていうのに繋がるのか…?」

「あぁ…灯さんは愛してしまったんだ…河童一族の禁忌の青年に…当時20歳だった灯さんは出かけ先で偶然一人の青年を助けた。見ればすぐに分かった事だった…オッドアイの瞳は禁忌の子特有だからな…。今まで幕府に見つからず隠れて生活をしている者だった………。」

「その出会いが灯さんの人生に、大きい変化をもたらしたんですね。」

「…あぁ…二人は相思相愛でこれが普通の人間同士なら何も問題はなかった…。相手が禁忌の子でなければ…17世紀…江戸という時代では、まだ河童一族の存在はあってはならないものだった…。一族の存在が認められたのは明治時代に入って間もない頃だ…。」

「西洋の魔女狩りの時代と一致するな…。」

「あぁ、灯さんはかくまったんだ…その禁忌の青年を…。そして二人は秘密の生活を始めた…。灯さんには最終的には結婚させられた高祖父にあたる人との婚約の話がでていたから、その窮屈な生活から抜け出したかったみたいだ。自分が愛する人の一族を滅ぼさないといけない人生に嫌気がさしていたんだ……でも、その生活も長くは続かなかった………。」

灯さんの日記を倉で見つけた時…俺は彼女と同じ人生を歩む事になるんじゃないかと感じた…。

聖人にも出会ってないあの頃……。

なぜそう感じたのか聖人を見て分かった……。

灯さんの愛した青年は、この時代に再び生れ落ちたからだ…。

「高祖父が灯さんの後をついて行き彼との関係が知られてしまったからだ…。」

「…それでどうして灯さんが処刑される事になるんだ? 自分の奥さんになる人なんだろ?」

「高祖父は二度と会わせないと灯さんを隔離させる生活を送った…。当時の灯さんはもう死んでしまおうかと思ったらしい……。でもそれすら叶わなかった…やがて灯さんは子供を身ごもった……。曽祖父は怖くなったんだ…禁忌の青年との子供ではないのかと…灯さんと彼は清い交際だったからそのような事実はなかった…。にも関わらず高祖父は灯さんの言葉を一切信用せず生まれた子供は目を開くより前に殺される事になった…。」

「…酷い…でもそっか、普通は自分の子供なら殺すなんて事ないもんね…その事で政府に気付かれてしまったんだ……。」

「あぁ……長い間自分の妻を隔離している事…その妻にはいくつか不審な点があるということ…そして彼女の行動を洗いざらい調べ上げて、ある一つの湖畔が怪しいと浮上した…そして…そこに隠れ住む一人の青年が幕府に捕らえられた…。」

「それが灯さんの愛した禁忌の青年だったのか……。」

「あぁ………彼の末路は決まっていた…死という道しか……。」

「それじゃあ…彼は…………………。」

「…灯さんが死に物狂いで家を抜け出して駆けつけた時彼は処刑される寸前だった…。灯さんは彼と幕府の役人の前に立ちはだかって彼の生を主張した…。」

「それで…それでどうなったんだ?」

「…灯さんが幕府の役人に切り捨てられたんだ…罪人として……そして…禁忌の青年が倒れた灯さんを抱きしめ何か言葉を発した後…灯さんの後を追える様にと処刑した……。」

「っどうして…どうしてそこで処刑に繋がるんですか!!」

「おかしいだろ!! そこで灯さんの言葉に耳を傾けていくべきだったんじゃないのかよ!!」

「まぁな…だがこの話には続きがある…。灯さんは生きていたんだ…。普通なら死んでいるはず…。なのに灯さんは生きていた……。禁忌の子には不思議な力があると言ったろう? …不老不死もあながち嘘ではなかったという事だ……。だが生まれてきた禁忌の子全てに延命や長寿の力があるとは限らない…不死の生を得た灯さんの子供なら不死なんじゃないか……。そう考えた幕府は高祖父との間に子供を作らせた……そうやって生まれてきたのが俺の曾祖父…だけど曾祖父には不死の兆候がなかった…生まれた時に難産で死にかけたんだ…だから貴重な不老不死は灯さんだけになった…本当に何をしても死ななかったそうだ…。心臓を突き刺しても、毒薬を飲ませても…灯さんは死ぬ事はなかった…。」

「でも…処刑されたんだよな? 死なないんじゃなかったのかよ?」

「彼女は日記にこう記している………。」


『私の今までの長寿は彼の力のおかげです。でもそれは彼の分の寿命を私が生き続けただけにすぎません…もうすぐ私の命の灯火は消えるでしょう…それは…私の子孫が転生した彼と再び巡り会う為です……。あの人は私に最期に言いました…来世で会おう…平和な地で二人で生きようと……だから私は旅立つのです…彼の待つ来世へ…』


「じゃあ…灯さんの最期の処刑は……。」

「…彼女が迎えた死期の時と重なったんだ……寿命の時だったから生き返る事がなかったんだ……。」

「ちなみに最後に行われた処刑方法は禁忌の青年が殺された方法と同じ首を落として火あぶりにしたそうだよ……。」

「先生が霧咲という姓を名乗らないのは、不老不死だと言われるのを避けるためでもあるんですね」

「あぁ…普通に考えればそんな事ないんだけど、灯さんの血を引く以上疑われるからな……ま、じいさんも普通のじじいだったし、親父もただの人間なんだけどな。」

「そうか…それで、どうやったら聖人を救えるんだ…?」

「灯さんの日記によると普通の人間と何も変わらないらしい…だがある一定の期間…極度に弱る時期が来るそうだ…灯さんの愛した青年は当時では成人とみなされた扱いを受けていた16~18歳の年齢の頃らしい。その時に灯さんと出会っている…。」

「最初に助けたって言っていた…あの初めての出会いの時か!!」

「あぁ、その弱った時期に死を迎える禁忌の子も多くいたという…。」

「…それで…灯さんは彼に何をしてあげたんですか?」

「…それが…詳しく記されてないんだ……。」

「「えっ!?」」

「灯さんは…何もしていない……ただ、苦しむ時は背中を摩り、元気な時は他愛もない会話をして普通の人間と同じように扱っただけだと記されていた……。」

「そんな……じゃあ、オレ達はどうすれば……。」

「普通にって……聖人は苦しんでいるのに……。」

「……ただ……昔と今とで違うことは沢山ある……。」

「昔と今で違うこと……? 時代が江戸から平成に変わってるってのとか?」

「それは仕方ない事だし……文明の進化とか?」

「さぁ、どちらにしろ河童一族の住処としてはここは都会すぎるんじゃないのか?」

「そっか、昔は隠れて生活していたから人の多い所にはいなかったもんな。」

「じゃあ、もっと空気が澄んでて自然の多い所に聖人を連れて行ってあげれば…。」

「…少しは容態も落ち着くかもな…………。」


それが聖人を救える事になるか分からないけど……。


目を覚まさない聖人……見つめる事しか出来ない神……。

神と聖人の出会いは灯さんの人生と大きく関係があるのか…?


灯さんの出会った禁忌の青年とは何者なのか……?

謎が謎を呼び再び混乱を招く……


「聖人は今17歳……灯さんの出会った青年と同じ年頃………。」


青年は18歳の誕生日を迎える前に灯さんとの出会いを果たした……。


――俺と聖人の出会いは3年前……もし、18歳の誕生日がリミットなら……

何としてでも聖人を救わないといけない……――


「聖人………オレ……聖人を助けたいんだ……聖人がオレを救ってくれた様に………。」


「聖人………僕は無力だけど……それでも聖人を救いたいと思ってるんだ……あの時背中を押してくれたのは他の誰でもない聖人だから…。」


呼吸は少し荒いが眠り続ける聖人……。

彼を救えるのは灯さんの日記と、河童一族代々伝わる何かがあるはず……。

「翔、優…聖人の家に行くぞ……河童一族が代々住処としていた自然の場所があるはずなんだ……灯さんと彼が出会ったあの湖畔が……。」


三人は向かう、聖人を救う場所を求めて……聖人の両親は何を語るのか…神は聖人を救えるのか……時間の迫る中、三人の思いは聖人の思い出へと変わっていく…。



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