兄、独白
『お前はお前…俺は俺だ…一族なんか関係ない…俺はお前を認めてるんだ』
オレの世界を変えてくれたのは、たった一人の保険医だった…。
正直に言って、オレの家系は普通と違う…。
まぁ、他人から見ればオレも普通ではないのだろうが、オレの家系…河流一族は代々河童の血を引く一族だ。
頭の上の皿は一族の者である証で、どこかしらに特別な力が宿るらしい(第六感とか?)
そんで、皿は簡単には割れないらしい…。
割れたら命に関わるとかで三日間位生死を彷徨うとか。
峠を乗り越えたら新しい皿が復活して元の生活が送れるらしいが?
でも、オレにはそれがない。
母さんの血が濃すぎて一族の力を受け継ぐ事が出来なかった…。。
幼い頃、父さんがオレの姿を見て肩を落としていたのをよく覚えてる。
父さんと母さんは禁忌婚だった…まぁ、人と河童だしね。
大恋愛の末の結婚だから、母さんが家を出ることで話はまとまったらしい…。
今は昔と違って人と河童の恋愛や結婚は認められているから…。
…って言っても、河童の血を継ぐ一族は河流の他にはもう二つ位しかないらしい…。
でも、じゃあオレはどうしたら良いのだろう…?
父さんにも、一族にも認めてもらえずヒトの皮を被った生き物…むしろ化け物だ…。
持って生まれた力もなく、ただ運動神経が良いことを理由に多数の部活を掛け持ちした…。
それを理由に家にいる時間を減らすために…。
部活に追われて身体を壊す為に…。
それでも家にいる時間はあって、認めてもらいたくて…勉強も運動も人並み以上に頑張ってもオレの居場所がない感じで…皿を持って生まれた妹と弟を見るとオレの存在が否定されたような、全てから見捨てられたような気がした…。
それから頑張ることを止めた。
両親の困惑なんか知らない…。
オレは自分を認めてくれる場所を求めに毎日深夜まで街を徘徊し、タバコを吸って、喧嘩して悪い奴らとツルむことにした…。
それが逃げる事だと分かっていても…居心地が良かったから…。
でも、ある時全てが変わった…。
街をウロついていた時に一人の男性に出会った…。
『それはお前の我侭だろう?聖人…お前は自分の気持ちを両親に伝えたか? 聖人というヒトを理解してもらったか?』
オレより5つも年上のその人は、馬鹿にするわけでも怒るわけでもなく、黙ってオレの話を聞いてくれた…とても真剣に…。
『でも、今更話すことなんか出来ない…それにオレの事に興味ないんだよ…二人共…だから…いいんだ…。』
『……はぁ…ならまともに学校行ってとりあえず卒業して来い、そしたら俺が拾ってやるよ…中坊には興味ねぇんだ。』
『なんだそれ…アンタの理屈かよ…オレは普通に卒業できるよ、家にいないだけで学校では優等生なんだぜ? 今からでも軽く試験は余裕だね。』
『ほう、なら入ってみろよ…あの名門校に、あの学校に入るまで遊ぶのはお預けにしとくからな…。』
『なっ!? あの名門校かよ…わかった、アンタのお遊びには付き合う気はねぇけど行ってやるよ! 高いモン奢らせてやるから覚悟しとけよ。』
『あぁ、楽しみにさせてもらうぜ。』
最初の出会いは最悪で(おまけにナンパだし)、でもなんとなく一緒にいて他愛もない話をして、オレを…オレの存在を認めてくれた…その人に言われて深夜の徘徊を止めて喧嘩に明け暮れることもなくなった。
そして…再びスポーツ青年として身体を動かすことにした。
あの時に無茶をしなくて本当に良かった…。
でも、あの人にそれから会うことはなかった…。
高校の入学式で、オレは生徒あの人が教師として再び出会うまでは…。
『なっ、アンタ学校の教師だったのかよ!』
『ククっまぁな。 しかしよく入れたな、感心するぜ』
『まぁ…入るって言ったからな。』
『じゃあ、これからはたっぷりと遊んでやるよ、聖人…』
『……結構です……。』
高校に入ってもオレはスポーツを続けることにした…。
だって、何かあったら保健室に行けばいいだろ?
「お前は昔から強がりだったよな…。」
「はぁ? 別に強がってねぇし。」
「あ? まぁそういうことにしといてやってもいいけどよ。」
多分、オレが本音で話せるのは頑張って探しても先生くらいしかいない気がする…。
「まぁ~、拾って貰ったから介護くらいはしてやるよ。」
「生意気なガキだ。」
先生が例え昔酷いヤツだったとしても、あの河童狩りの一族の末裔だとしてもずっとついてくことにしたから…。
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