河童物語〜番外編〜 聖人の章

藤城 魅梨香

叶わない夢…

本当は…ただ愛して欲しかっただけ…。


-叶わない夢を見たコトはありますか?-


冷たい風の吹く10月の夜…。

オレは一人意味もなく歩いていた…。


「っ…寒いなぁ…夜中に出歩くの止めようかな…」


別に好きで出歩いてるわけじゃない…。

両親に嫌われたくてやってるわけじゃない…。

もう嫌われてるのかもしれないケド…。


-ただ、オレと言う存在を認めて欲しかっただけ…オレを見て欲しかっただけ…見てもらえる術を…オレは知らないで育っただけ…-


10月の後半にもなると好き好んで外を徘徊する奴はいない…。


「まだこの時間は母さん起きてるんだよなぁ…」

別に父さんと母さんが嫌いなわけではない…一つ下の妹も今4つの弟も…。

周りからみたら暖かい家庭なんだと思う…でも、オレは家族の一員になれてない気がした…一族の恥さらしな気がした…。


「ヒトでありたい…」


それが今のオレの思いであり願いでもある…。


ヒトであるために。


ヒトとして生きる為に。


存在価値を見出す為に。


寒空の下、当てもなく歩き続けた…。


「まるで迷子の子供みたいだ」


誰が聞くわけでもないが、小さく呟いた。


もし、オレが海里の年だったら…きっと母親とはぐれて当てもなく泣き歩く子供だったのだろう。


海里ではない。


今、この時間に、居場所を探しているのは間違いなく、オレ自身なんだ。


今、オレが生きるこの時代は戦争はないが、生きにくい世界だ。


かつて、人々は多くの生物(いきもの)達と共存して生きてきた。


それこそ、昔話にあるような、狐と狸の化かし合いは日常茶飯事。


物語の中でしか出ないだろう座敷童や鬼ですら、共に生活をし、過ごしていた。



そう、オレも人ではないヒトだ…。


見た目は普通の人間そのものだ。


むしろ、母親の次に人らしいのはオレだ。


後は違う、父さんも、1つ下の妹である春流子と末っ子の海里は河童である。


オレは、人間である母さんと河童一族である父さんから生まれた異端児なのだ…。


河童一族の末裔である父さんと、結構な金持ちのお嬢様だった母さんの大恋愛の末の結婚。



昔より厳しくなくなった河童と人間の婚姻。



ただ、好き好んで自分と種族の違う相手を選ぶ事ってあまり無いと思う。


それでも、父さんは母さんを、母さんは父さんを選んだ…。


後に生まれてくるオレ達の事など、考える事もなく…。


河童一族の本家は力が強く、能力も高い。


だから、ほぼ人間の姿で居られる事が出来る。


逆に分家のしかも末端の方になると…妖怪とか異形と言われる部類に入る…。

そう、鱗がついていたり、肌も人とは異なる色をしたり、背には甲羅を背負っている者もいる。


父さんは人間に皿のせた感じで、皿さえなけりゃ人間と変わらない。


妹の春流子も、末っ子の海里も…。


皿が欲しかったとは思わないけど、見た目は人間なのに、瞳の色が違うだけで、人間の仲間にも入れて貰えなかった…。


そして、父さんも母さんも助けてはくれなかった…。

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