第3話 闘技場再建
ここは貴族区の中にある、会議室。
2人が成し遂げた偉業?の後始末をするために会議が行われていた。
そう、発表から先送りにされた罰則についてである。
年齢は40半ば、立派な顎髭を蓄えたガタイの良い長髪の男が苦虫を殺したかのような顔をしながら発言し出す。
「ルールの裏を取られたとはいえ、このまま無罪方面で済ますつもりですかな?どれだけの被害があったと思う!」
かなり憤慨しているようだ。
「待て、そもそもルールは破ったのはお前の差し金と聞いておるぞ?」
国首エグトールが発言する。
国を代表する者だけが付けられるサークレットを被り、鼻の下に髭を蓄えた齢、30半ば、見るからに鍛えられた身体を持つ男、10年前の戦争で一番の武勲をあげた者でもある。
「幸い石畳が壊れただけ、観客席の掃除さえすれば、さほど時間掛からずに復帰は可能です……石畳を切り出す作業が頭痛いですがね…」
財務大臣アラン・フランドールが弱々しい声で呟く。
見た目にも顔面蒼白で体調は優れない模様だ。
「国首どの、誰がルールを破ったのですかな?同門対決しないルールは暗黙了解と聞いているが??」
明らかに狼狽えた表情であるが強気に言い放つ。
「いくら君の子……だけでもないが…ウィルに惨敗したといえ、ちょっとおいたが過ぎると思うがの?」
見た目に老いている大公フランシスカがしがれた声で呟く。
国首を除く貴族の中でも一番の権力を持つ大公、いつもであればグランは目の敵にしているはずだが、公爵アウグスは彼以上に気に入らないらしく、鋭い視線をアウグスに向ける。(あの馬鹿が目立ちおって、庇えんだろうが……!)
あの馬鹿とはもちろんグランを指しており、アリアと結婚していなければ、フランシスカの元に養子として入り、後を継ぐ予定であった…
その関係もあり、心穏やかではなく目の敵にしている風の態度をとるが息子にも等しい間柄であった為か、言葉や態度と裏腹に最終的には味方になることも少なくはなかった。
「まあよい、罰則無しとはいかない。グラン達には少し働いて貰おう。アラン…、石の切り出しと運搬にどれくらい掛かる?」
「2ヶ月ほど掛かります。実に頭が痛い。」
後始末に奔走した結果、持病の頭痛が悪化し体調の悪いアランだが、観客席の清掃までは下級冒険者を導入し終わっている。
石だけは魔光石という打撃にも魔法にも耐性のある特別な石をダンジョンの最層部にあるアダント山から正方形に切り出し運ぶ必要がある。
闘技場を作るときには観客席の前、防壁にも使ったため、かなりの量を運んでいた。
そんな貴重な石を彼らは壊して見せたのである。
エグトールが考えながら案を出し始める。
「運搬は転送魔法陣を使えば楽は出来るが、最悪魔物が流れ込んで来るか?魔法士2人と切り出しの剣士が10人はいるな。普通の石工では厳しいと聞いておる」
「そうじゃ!2人に責任を取らせて、石工をやらせるのじゃ!そうすれば護衛はいらんし、貴重な戦力は減らせるぞ」
と大公がここぞとばかりに口を出す。(ふう、あいつらの馬鹿騒ぎを他人に見せたくないわい)
心の中は違うことを考えているようだが……
しかし、何故かこの案に公爵ポンゾ・エジンバニアも同意する。
「確かに罰則としては申し分ない、さすが大公、良い案です」
「そうすると後は魔法士か?負けを消すとの条件で闘技士から募るのもありだな、幾人か心当たりがある」
……(ふふふ、ここは我が娘の負けが消せるチャンスだ…)
最後に国首がしめる。
「よし、各自人員を持ち合い、早急に闘技場を復帰せよ、アランはグランを足止め、罰則を伝えよ」
それぞれの思惑もあるが、早急に闘技場を再開すことだけは一致した模様である。
魔法士2人、グランとウィルというPTが出来上がった。
その夜、グラン邸(という名の掘っ建て小屋)に財務大臣アランがやってきた。
罰則を伝えるためである。
「おう……、よりによってアダント山かよ」
スッカリ出来上がっていたグランは多少面を食らった表情をしたが……
急に豹変し怪しい笑みを浮かべた。
「楽しそうじゃねぇか?なぁウィルよ」
「そうですね、魔光石の切り出しですかぁ~腕が鳴りますね!」
グランにシコタマ飲まされたウィルが妙なテンションで同意する。
「あぁ~あ、アランさん。これは罰則になってないよ?この案を出したの誰なの?」
ウィルの表情を読み取ったアリアが顔を引き攣らせながら疲れた笑みを浮かべていた。
「大公ですよ、アリア。ん?そう云うことか、大公はこうなることを予測したのか……」
そう、トレーニングマニアたるこの2人に硬い物など単なる技を試すだけの遊び道具……
大公は皆が納得する落としどころを用意したかのように振るまい、単に身内に近しい人間が罰を受けていないかのように行動するのを監視させないような状況を作り出したのである。
「伯父さまにも困った物ね、まだ諦めていないのかしら?」
…フフフッ
これまた何処と無く陰のあるような怪しい笑みを浮かべた、アリアが呟く。
「アランさん、お食事まだですわね?是非、食べていってくださいな」
「いえ、このまま……」
と言い掛け、言葉を止めた。
背後に悪魔を背負ってるかのような、紫と赤が混じったようなオーラを漂わせ、素晴らしい微笑みを浮かべたアリアの姿が眼に入った為である。
「わっ、分かりました。付き合います!」
過去に相当、大公に煮え湯を飲まされたアリアは、そのことを思い出し
全員が酒でくたばるまで絡み酒をし、夜が明けるまで飲み明かしたのであった。
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