第2話 その日の夜に
元貴族とその弟子による事件……
そんな見出しがグランティアードの号外を飾った。
『前代未聞の闘技場破壊!成し遂げた人物とは!!』
特集!エルニシア家!
など大凡、事件の傷跡を感じさせない、若干、不謹慎な記事もあった。
インタビュー記事などは、国首や貴族、財務大臣など多岐にわたり、それぞれの思惑で語られた言葉が並んだ。
足場の石畳だけを狙って消すと芸当まで成し遂げ、同時に着地。
場外によるダブルKOが発生、当初のルール通り、ノーカウントとなった今試合。
観客騒然の玄人技に、騎士団長など脳筋に近い人種は拍手喝采し、惜しみない賛辞を送った。
国首は大うけし、目に涙を湛えるほど笑い転げたらしい。
気に入らないのは目の上のたんこぶグラン・エルニシアの努力を無に介せなかった有力貴族どもだった。
この国は一枚岩とはいかず、派閥が存在する。
戦争後から発生した旧エルニシア派閥を基とする国首派。
もう一方はエルニシア家と並ぶ公爵家、エシンバニア。
中立派としては大公フランシスカを頭とする派閥。
3つの派閥で運営されていた。
ルシンバニア家の発案で闘技士制度を見直す必要ありと相成った。
(これには中立派にいる財務大臣アラン・フランドールも賛成した)
これを受けて、ルールは大幅に改正され、闘技場破壊を行った場合、罰金が発生する事なった。
場外によるダブルKOの場合、どちら(勝ち負け)もカウントされない点も改正。
今後、引き分けという項目が追加、連続勝利数は途絶えることになった。
また、意図した闘技場破壊は罰則を設ける方向と通達された。
闘技士制度が出来て5年目の事件だった……
2人が繰り出した秘奥義は誰でも打てるわけでなく(当たり前)、武を極めており、闘気と呼ばれる身体を巡る気の方向性を攻撃方面で高める技術が必要である。
グランが家を取り戻すために2年の歳月を掛け、常人が発狂するほどのトレーニングを毎日実施した結果、習得出来た努力の賜である。
実はこの時のトレーニングパートナーがウィルだったりする。
グランが公爵だった頃、ウィルは家の筆頭執事(男爵)の子供だった。
アリサとウィルは、小さい時からよく遊んでいたこともあり、グランに稽古をつけて貰っていた。
当時から気の使い方がグランより上手く、剣のセンスもあった為、ことあるたびに連れ出されたので、アリサがほっぺを膨らませて『私の遊び相手を取らないで!』と怒ってたっけ?
家が没落した後でもこの関係は変わらず……
一も二もなく強制的に連れて行かれた。
アリサはカンカンだった……
そして、偉業を成し遂げた2人はどうしてるかというと……
道場兼住処のリビングで祝勝会をしていた。
グランとウィルは大きなソファに座り、料理をつまみながら酒を飲んでいた。
この国では15歳で酒は一応解禁される。(ワインまで、ウィスキーなどは18歳から)
二人して飲んでいると奥様が時折、料理を運んでくる。
アリサは、闘技場の試合間、道場を任されいるため、この場には居ない。
「ウィルよ、よくやったぞ!これでお互い雑魚どもをヤルだけだ!!」
ガハハッと豪快に笑いながらグランは酒を飲む。
「いくら、石畳だけを粉砕したとはいえ、1ヶ月は再開出来ないらしいですよ?良かったんですか??」
グラス片手に困った顔をしたウィルが呟く。
「何を迷うことがある。1ヶ月またあのトレーニングをするれば良いだけだ、困ることはない。それとも、他に困ることがあるのかな?」
ニタニタと笑う。
「っ!?いや、別にアリサと一緒に修行出来ないからじゃないけど……」
幾分かウィルの顔色が悪い。
「そういえば、国首の娘がお前に是非会いたいとか云ってたらしいぞ??そのうち書状が来るかもな?あとは、騎士団長もお前のこと大層お気に入ったようでこちらも……」
グビッと酒をあおる。
顔が青ざめたウィルがびっくりしてしゃべり出す。
「?!そこまで名が売れるんですか?年齢制限ギリギリのおかげで同年代の子達からコツコツ勝ち星を重ねただけの存在だったのに!」
グビッ……
「当たり前だ!そもそも、勝ち方がえげつない、手加減し過ぎだ。有名だったぞ、こっそり参加してた貴族の子供達から」
「エッ?居たの?」
「気付いていなかったか?そもそも偽名で参加してるからな」
一応、除名されたとはいえ、元貴族さすがに情報は伝わってくるらしい。
…しかし、5分ほど軽く打ち合って、束打ちで意識奪うのは駄目だった?
「僕は穏便に済ませてるつもりだったのですが……」
ガハハハッ、今日一番の豪快の笑い声が響いた。
「馬鹿云え!打ち合っても木人ほどたわまず、鉄壁の如く。時間が来ると医務室だぞ?そりゃな~」
膝をバンバン叩き、涙目になって笑う。
ウィルは少しだけ、不機嫌になる。
「ほぼ、グランさんの相手しかしてないから加減が難しいんですよ!」
「あはは、そりゃ悪かったなぁ~。本気で打っても刃が鈍してあるから弱く打てば気絶させられるぞ?俺は目立ちたいのかと思ってたわ」
酷い師匠もあったものだ。注意してくれても良いじゃないか?この道場、何故か揃いも揃って化け物が多く、気が抜けないのだ。
そんな環境でやれる手加減は木刀を使う、試合刀を使うの2種類である。(素手は違う意味で危険なので選択外)
道場では、試合刀を使うと治療に時間が掛かるとの理由から木刀が目下使われる理由になっている。
実際のところ、治癒魔法使えるのがグランさんの奥様だけで、一時期あまりに怪我人が多くなりすぎて、怒られた事が原因だったりする。
なので、僕は奥様の手間を減らすため手加減する時は束打ちと決めている。
なのに……この師匠と来たら…
不機嫌な顔をしていると、アリサが道場から帰ってきた。
「ただいま。なんか凄い騒ぎになってるみたいだけど何かしたの?お父さん??」
奥様、アリアが料理を運びながら答える。
「アリサ、おかえり。お父さんはね。ウィルと試合して闘技場壊したみたいよ?フランジール公爵の顔が青醒めていたわ」
「うわ…。いくら同門対決はしない方針だったのを当ててきたとはいえ、やり過ぎでしょ?」
同門つぶし合い厳禁もルールにあったっけ?
頭を傾げていると…
グランが反論を始めた。
「おいおい。財務担当のフランジール公爵には悪いが、ルールを無視したのは向こうだ。そこは気遣わなくてもいいだろ?」
「アナタ、数少ない味方の公爵ですよ?少しは大事になさい」
「お父さんは昔からそう云うところだよね~」
旗色が悪くなったグランは強引に話を変えにいく。
「しばらく、この騒ぎで闘技場が使えないからまた籠もるぞ!」
「えっ?また??そこまでしないと駄目なの?」
あからさまに不満顔のアリサが呟く。
「アナタ!ウィルくんをたまにはアリサに返しなさい!!」
見かねたアリアは娘を擁護する。
「っ?!お母さん!そこまで云わなくても…」
顔を真っ赤にして俯く。
「……」
同じく顔を赤してアリサと目が合わせられないウィル。
ニヤニヤするグラン、アリア
微妙な空気のまま、祝勝会は幕を閉じた。
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