うたかたのせかい

岩鳶。

第1話 始まりの時

この世は現か幻か?

世界は儚き泡沫の夢のよう


-世の理 初記賢者の書- 賢者 マリン 記す処による


1.衛星国家グランティアード


 衛星国家グランティアードは、10年前の戦争が原因の大災害による影響を防ぐため、広大な敷地を虹色に輝く半透明のドーム状の結界に覆われている。

結界の外は、濃い魔素にあふれ、魔物が横行する。

 濃い魔素は、対策なしに長時間浴びると皮膚がただれ、精神が崩壊する。

 魔素が元に生命を発する魔物は、通常の強さではない。

濃い魔素を身体に取り込み、2~3倍の強さを誇る。

 そういった事情もあり、おいそれと出入りする事が難しい。


 出入りするためには、

1.外の魔物に対する力を持つ者(冒険者でC級以上)

2.魔素を中和する装置(トレーサー、結界石)や力を持つ者(ソーサラー、結界師)

3.特別に出入りを許された階層にある者

などである。

 この条件を満たす者は国を代表するものや貴族であったり、商人、冒険者でも認められたグループなど……

 必然と力や金、権力を持つ者などになり、一般の国民は国を出ることすら考えられていない。

 力を持たない一般国民が生活できる仕組みはある程度整えられているものの、普通に生活するというレベルには達しておらず……

 身体や精神に異常をきたす者が多く、犯罪に走る者なども後を絶たなかった。


 そこで、貴族どもが話し合い打ち出した政策が闘技士制度、健全な精神は健全な身体の考えの元

『自らの技を持って自分の身を立てろ!』


 そう、闘技場勝利数により報償を払うというものだった。

 国としても10年前の戦争により、戦力が無くなっており、自衛するのがやっと状態、他国との折り合いも悪く援助も受けることがままならない。

 戦力も手に入り、市民の底上げにもなると考えた。

 更に無敗で勝ち進む闘技士には、区切りごとに特別な報償が用意され、否応なしにも国は盛り上がりを見せた。

 これは貧乏に嘆く?少年(私、ウィル15歳)が成り上がる?話である!!


ガッキン!、カーン、カーン……

ドォーリャー、フン!

ハッ!、シュ、シュ、カン!


 鉄と鉄がぶつかり合う激しい音や軽快なステップを踏みながら細かく斬撃を繰り出す音が交互に鳴り響く。

 常に鉄がぶつかり合うこの場所では鉄の匂いが鼻につく。

 10m角を石畳で敷き詰められた場所を円筒状の壁で囲われており、壁の前には観客席が設置されている。

 国が今回の施策で用意した闘技場である。

闘技士以外で観戦するためには、入場料を払う必要がある。

報奨金が思いの外、予算を圧迫したため、当初、無料で入場できたが現在は入場料を取られている。

 ただ、国民が観戦できるように料金は格安である。


 この闘技場内では、毎日100試合以上が組まれ、勝利数に応じて、ランク分けされる。1試合勝つごとに報奨金が支払われるが、金額はランクにより決められている。

 今、行われている試合は最上位S級のものになる。


 鋭く武器を振るい激しく動いている中に怒声が響く。


「おら、どうした?いつまでぼぉーっとしてやがる?しかも誰に向かって呟いてやがる??お前の実力はこんなものか??」


怒声の主は184cmの身長、筋肉隆々でスキンヘッド、戦斧を構えた下顎に立派な髭を蓄えた男。腰には剣が2本、左右にぶら下げている。

対するは176cmと年齢からすると大柄、細身ではあるが必要なところだけに必要なだけ筋肉のついた無駄のない躯体をもつ、両手剣を構えた赤髪、真ん中分け一見優男風貌を持つ少年。


「待たせたね?ちょっと説明しないといけなかったからね。大目に見てよ?」


屈託のない笑みを浮かべ応対する。


「ったくよ、変な気ぃ回してると命取りだぞ、ここではな。実際に死ぬことはないとはいえ、俺とお前の目標では死ぬに等しいだろ?」

「だね。本気で打ってないから待ってくれたんでしょ?優しいなぁ~」


素早く打ち合いながら話を続ける。


「俺の千勝目とお前の百勝目で当てるとは意地でも貴族どもは報償を払いたくないらしいな」


そういうと戦斧を横凪ぎ一閃、対戦相手に振るいに行く。

相手の少年は、これを剣で起動を斜めに上手く流し身を屈め躱す。


 このおっさん、グランといい俺の師匠であり、ご近所さん。

しかも、元貴族だが戦争の折に政敵に汚名を着せられ、家は没収。

現在は市民区に奥さんと娘さん、息子さんとともに武道場を開き慎ましく生活している。

グランさんの目標は、家の再興、千勝目の報償は、爵位の授与。

 武に秀でていたグランさんは、公爵家の跡取りであった奥さんを嫁に貰うことで、公爵を継いだ。戦争の折に奥さんのじぃさまやお父様などが不可解な死?を迎え、政治的後ろ盾を無くした。

 その影響もあってか、二人を亡くしことと二人が関わった戦の大敗の責任を問われた。元々、公爵家の中でも一番古く伝統もあったエルニシア家は次期国主として名が上がっていた。

 グランさんは、そのトップ……

 当時、魔戦騎という敵国の兵器の破壊任務を受けていたグランさんは家の危機に対応することが出来なかった。

 そのことを非常に悔やみ、過酷な訓練を自らに課した。

奥さんは反対したが、もう一度同じ舞台に立ち、家の再興、領民を取り戻すつもりで居る。


フン、ガァィイン…


「そろそろ、真面目にやり合わないと目をつけられるぞ?ウィルよ」


そして、僕の目標はグランさんを支えるために騎士団に入ること。平民落ちした人間が入るにはここで勝ち上がらないといけない。

 そしてもう一個は……


カン、カン、グァィン


「分かってます。手筈どおり、秘奥義の打ち合いで…しかし、悔しいですね。あなたに腰の双剣を抜かせ本気を出させることが公の場で出来ないなんて……」


フン、ウォリャー

戦斧の縁に両手剣の先を掛けられ、そのまま投げ飛ばされる。

3mほど飛ばされるが、何とか着地踏みとどまる。


「城に戻って、家を取り戻したらいくらでも相手してやるよ。ボロ道場じゃ崩壊するからな。ただ、娘の話は別だ。欲しければ、俺を倒せ!」


ガハハと笑いとばす。

もう一個の願いとは、娘さん『アリサ』と付き合うこと、そして叶うならば……


「行きますよ?グランさん??」

「おう何時でも来い!思いの丈をぶつけてこい!良ければ、付き合うのだけは認めてやらぁ」

「後悔しますよ?」

「かまわん、いくぜ!」

『闘気解放!秘奥義!!……』


ふたりがこの局面を乗り切る為に選択したのは、唯一負けがつかない方法、闘技場完全破壊による場外、ダブルKO…相打ちだった。


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