第4話 魔法士?
貴族区にある一際大きな屋敷、貴族区の中でも最大級の大きさを誇る。
先の大戦時、商人から貴族に成り上がったエジンバニア家の屋敷である。
この屋敷の2階、執務室で一際大きな声が聞こえる。
「どう云う事ですか?闘技士の負けがなくなるって!!他の闘技士への申し訳がたたないじゃない!!」
紅い髪、ロングヘアでその髪の長さは腰の当たりまで達する。
現在は、頭の上で括り団子状にして尻尾を靡かせるようにしてある。
意思の強さを感じる大きな眼は若干ツリ気味ではあるが、全体的に整った顔つきであり、所謂、美人と云われる部類には入る。
その女性が凄い剣幕で目前の父親らしき男性を叱責する。
「なっ、何を云うか!これでお前も第一段階へ進めるチャンスではないか?」
あくまで宥めるように娘『リリア』を穏やかな言葉で諭しに入る。
「そう云う問題じゃない!あの旧公爵家一門に負けたのは私の努力が足りなかったから!それで最低限の資格しか取れなくても仕方がないと切り替えできていたのに!!」
闘技場のルールでは百勝毎の報償の他にトータル勝ち数でも報償がそれなりにつく。エリート(上級貴族)としてやっていこうとすると無傷での百勝が最低条件となる、その節目の試合にあのウィルと当たってしまった。
かなり善戦していたのだが、ウィルの5分のリミッター解除に即時対応仕切れなかった。気がつくと医務室。かすかに残る身体の痛み、そして終わってしまった事で涙した。
とうに落としどころが出来ていたところにこの話、こんな特例で負けが消えても恥以外の何ものでもない…そう思っても仕方が無いくらいに気位が高かった。
父、ポンゾは娘の為を思って好条件を引き出して来たつもりだったが困り果ててしまった。
「悪い話ではないぞ?今回の話はあの旧公爵家とパーティーが組めるのだ!高みに上がるにはちょうど良いのではないか?」
ハッとリリアの表情が変わり、困った表情になる。
「何ですって!……分かりました、話は受けます。ただ、負けが消えることは反対です。」(やった!ウィル様に会える!!!)
ポンゾは困った顔をしたが……(まあ、いいか。依頼さえこなせばどうにでも……)
「じゃあ、国首にはリリアを推しておく。もう1人魔法士が必要だが……たぶん、チェスカーの処からだな」
「……まぁ、我慢します。チッ、あのブリッ子……め…」
(やりますわね、お父様。これでウィル様に近づけますわ。隙あらばウフフッ)
「相変わらず、仲は悪いのか?おそらく向こうも負けを消して格をあげたいのだろうな。場所はアダント山だ。準備はアゼントにでもさせておけ。失敗は無いと思うが場所が場所だ、気を抜かないでくれ。」
娘の起伏の激しい感情に深いため息を付きながらリリアに告げる。(あとは何事も起きないことだけ祈ろう)
裏表で変化の激しい攻防であったが、魔法士の一人が決定した。
♦
場所変わって、同じく貴族区、公爵チェスカー家、ここは昔からある古い家柄であり、建物も歴史を感じる小さくも立派な風貌を備えた作りをしている。
ここでも先ほどのエジンバニア家と同じく、1階執務室で静かに話し合い(化かし合い)が行われていた。
「お父様!そんな美味しい条件!!裏がありそうですわよ?」
ここはここで違う意味で、もめていた。
「国首が条件を飲んだんだ、悪くはならないと思うがの?」
「勿論、話は受けますが、ウィル様はともかくグランが一緒なのがイヤですわ!」
「そう我が侭云うのでない。それでは返事を直ぐにでも出しておく、準備だけはしておくように!」
ふう、何とかなったな。早く話を切らないと我が娘ながら怖い方向へ話が進むからな、変な条件を付けられる前に打ち切ろう。
アウグスが部屋を去った後も娘エリンは考えに耽っていた。
「純粋にウィル様と再会出来るのは、嬉しいのですが……あの小娘も同様に話にのる筈、ここは裏から手を回す必要がありそうね」
「アンリ!」
天井に向かって声を掛ける。
『お嬢、思念で声かけてくださいよ、此でも隠密ですよ?』
突如、エリンの頭に思念が流れ込んで来る。
『ごめんあそばせ。雰囲気出ないでしょ?空気読んでよ!』
『話は聞いていたわね?アダント山、私の影で待機してなさい』
いきなりのめちゃぶりに転ける音が聞こえる。
『お嬢!ばれたら大変なことに!』
『大丈夫よ。出番はおそらく無いはず。あの小娘が余計な事をしない限りはね』
この私に負けを付けた殿方、あの小娘に取られてなるものですか!
公爵家の娘、実は二人ともウィルに惚れており、その結果、仲が悪くなったのであった。
アリサ、リリア、エリン、ウィル。実は皆、幼い頃に冒険をした仲間であった……
若干名、記憶にない者もいるようだが…
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