第85話

「アレサンド、約束は覚えてくれていますね?!

 家族は仲良く暮らすのですよ。

 親の勝手で、子供に序列をつけたり、待遇を変えては嫌ですよ。

 それとも、私との約束など破っても構わないと思っているのですか?!」


「いや、そんな事はないよ。

 カチュアとの約束を破ったりはしないよ。

 僕の愛情はどの子にも同じだけ注がれているよ。

 ただ皇室は、いや、虎獣人族は大公家の頃から実力主義なのだよ。

 身分に応じて保証される待遇以外は、能力や役職で得るモノなんだよ。

 それは皇子も同じなんだ。

 食事も教育も基本同じ待遇だけれど、教育で能力を示した皇子は、それが学問であろうと武術であろうと、次のレベルを学ぶことができるんだ。

 他の皇子ができないからといって、先に出来た子に次の事を教えず、学ぶ権利を奪うような事をしないのだよ。

 ベンとリドルは、他の兄弟姉妹よりも能力を示した。

 だから次の事を学べているだけだよ。

 決して他の兄弟姉妹を差別しているわけではないのだよ」


「それは分かりました。

 では、他の兄弟姉妹との教育の差は眼を瞑りましょう。

 心配なのはベンとリドルが争い傷つけ合う事です。

 これだけは絶対に許しません。

 それが皇室の法であろうと、虎獣人族の仕来りであろうと、絶対に認めません」

 そんな事を認めたら、アレサンドは敵です。

 私は子供達を連れて帝国から出てきますからね!」


「う、う、う、う、う。

 いや、しかし、だが、う~ん、それは」


 アレサンドは必至で虎獣人族の仕来りと習性を訴えようとした。

 訴えようとしたのだが、口にする事もできなかった。

 つがいの呪縛が発動されたのだ。

 カチュアが意識してアレサンドのつがいの呪縛を発動するのは、これが初めてだったが、それほどカチュアは今回の件に危機感を持っていた。


 一方アレサンドは本当に困っていた。

 カチュアは一番大切なのは間違いのない事だったが、常人を遥かに凌駕した精神力で、つがいの呪縛に対抗しようとしていた。

 人族と獣人族のつがいなら、圧倒的に人族が有利なのに、人族のカチュアの願いに抗い、虎獣人族として皇帝として、譲ってはならないところを守ろうとした。


 だが、抗いきれなかった。

 今回のカチュアが本気だったから、ベンとリドルを害されない準備をしようと、なりふり構わず使えるモノを全て使っていた。

 アレサンドを言いなりにしようと、アレサンドの愛情を拒絶していたのだ。

 つがいのフェロモンに誘惑され、ずっとお預け状態のアレサンドは、最初は常人離れした精神力で抵抗していたが、数日をしてカチュアの思い通りに動いてしまった。

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