第86話
「ベン、リドル、そしてミレイ、三人仲良く暮らすのですよ。
決して兄弟姉妹、争ってはいけませんよ。
他の誰が信じられなくなっても、最後に助け合える兄弟姉妹になりなさい。
これが、ママがお前達に願う事です」
「はい、ママ」
「はい」
カチュアは毎日兄弟姉妹が仲良く暮らすように話して聞かせた。
他の虎獣人族では考えられないくらい、べったりと接した。
家族が仲良く助け合い、寄り添って暮らすのが、カチュアの長年の夢だった。
その夢のために、カチュアは強硬手段に出る覚悟をしていた。
その最初が、アレサンドの愛を拒絶する事だった。
アレサンドはお預けさせられている犬状態だった。
狂おしいほどの飢餓感に苛まれ、それでなくてもつがいの呪縛に苛まれているのに、常人では乱心してしまうほどの状態だった。
そに状態でも、政務の時には皇帝らしく振舞っているのだから、アレサンドの精神力と義務感は感嘆に値する。
だが、必死で隠すアレサンドだが、乳母だったマリアム、傅役だったエリック、乳妹のアンネ、幼い頃から側に付き従ってきた元近習の側近忠臣の眼は誤魔化せない。
彼らにはアレサンドの苦しみが痛いほど伝わっていた。
同時には彼らはにはカチュアの覚悟も伝わっていた。
この四年近い生活で、カチュアの性格も分かっていた。
優しく思いやりがあるが、同時に愛情に飢えていたカチュア。
つがいという絶対的な力を手に入れたのに、その力を行使することなく、種族の違うアレサンドの愛を受け入れ、権力とは無縁の静かな生活を望んでいた。
そんなカチュアが、周りに気を使う事なく、堂々とつがいの呪縛を行使して、自分の要求を通そうとしている。
普通の人族家庭なら、何の問題もない、当たり前の願いだ。
虎獣人族の家庭でも、権力のない家ならあまり問題にならない。
そもそも虎の血が濃い家なら、親が望んでも敵わない願いなのだ。
虎獣人族でも指導者の地位にいる者は、他の種族に対抗するために、群れを作らなければいけない事を理解している。
だからこそ、国を造ったのだが、どうしても個を求める気持ちがある。
作戦力や統率力よりも、個の戦闘力で指導者を選んでしまう。
だからこそ、純粋虎獣人族の皇子よりも、カチュアの血を引くベンやリドルを皇帝に迎える気になるのだが、皇国を守りつつも、個の強さを明確にしたいという考えがどうしてもあるのだ。
カチュア、アレサンド、マリアム、エリック、アンネ、側近忠臣の一人一人が、真剣にこれからの皇国の事を考えていた。
不幸な結果にならないように、しかも、皇国を守るために、虎獣人族の本質を守るために、考えに考えていたが、それぞれ微妙に大切にしているモノが違っていた。
それが争いも元になり、先走った者が不幸を呼び寄せる原因にもなる。
誰もが動くに動けなくなっていた時に、事件が起こってしまった。
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