「ざまぁ」「婚約破棄」短編集２巻

第81話

「ベン、弟達をケガさせてはいけませんよ。

　貴男はお兄さんなのですから、弟や妹を守らなければいけないのですよ。

　分かりましたね」

「はい、分かりました、ママ」

　芸術と創作に目覚め、母親に愛情たっぷりに、でも厳しく育てられているベンは、子供の残虐性が矯められていた。

　完全ではないものの、優しや道徳心が育っていた。

　父親の皇帝アレサンドからも、国を治める支配者としての責任感と矜持を叩きこまれているが、一部の人族父親が持つ父性愛は与えられなかった。

　だが、群れの長が配下の者に与える慈愛は与えられていた。

　父母それぞの愛情を受けて育つベンは、獣人族らしい獣の特性と人間の特性を併せ持つ性格に育っていた。

　純血種の虎獣人族よりも人間らしさが強いのは仕方がない。

　人間らしさは、良い点も悪い点も出てしまいそうになるのだが、カチュアの性格を色濃く受け継いでいるのか、カチュアやレオ、三人の戦闘侍女に窘められ導かれることで、カチュアのような優しさが芽生えていた。

　それを注意深く見定めていた後宮総取締のマリアムが、アンネ以下の妻妾が生んだ弟や妹と一緒に遊ばせる事を決断し、皇帝アレサンドの許可をとった。

　マリアムの想いは、圧倒的な魔力と戦闘力を得たベンの強さを、弟や妹に徹底的に知らしめ、皇帝位を争う気持ちをなくさせる事だった。

　あまりにかけ離れた実力差があれば、継承争いが殺し合いにならずに済むという事を、アレサンドの時に経験していたからだ。

　集められた皇子皇女達には付添人がいた。

　まずは皇子皇女を生んだ実の母親だ。

　母親達は、カチュアやマリアムに子供が害されないか戦々恐々としていた。

　皇位継承争いで暗殺が横行するのは常識なので、母性本能が警戒させるのだ。

　特に相手は皇帝アレサンドのつがいカチュアだ。

　どのような悪行を行おうと、皇帝から罰せられる事はないと考えていた。

　他にも全ての皇子皇女に乳母と戦闘侍女と侍女が付き添っていた。

　最低でも三人の側近が、緊張を隠さずに皇子皇女を見守っていた。

　母親の実家が送り込んできた侍女以外は、元々後宮にいる戦闘侍女や女官なので、カチュアの事やマリアムの事はよく知っている。

　不必要に皇子皇女を害さないと理解していたが、それでも忠誠心と職業意識から、何があっても皇子皇女を護ろうとしていた。

　だが、そんな心配は杞憂だった。

　カチュアもマリアムを慈愛の籠った眼で全ての皇子皇女を見守っていた。

　害意などひとかけらもなく、家族愛に満ち満ちていた。

　一方皇子皇女達は、本能的に一瞬で強弱を見抜いていた。

　ベンとの圧倒的な力の差を感じ、争うことなく順位付けを受け入れて降参した。

　それを見せつけられた、実母と実家が送り込んだ侍女は、諦めるしかなかった。

　だが、ここで驚くべき事が起こった。