第79話

「これでは、とても私の子供を皇帝にするのは無理ですね」


「諦めなさい、アンネ。

 虎獣人族の王座は実力次第です。

 まして今は、以前とは違って多くの種族を束ねる皇位を継ぐことになるのです。

 謀略や策略で手に入れていいものではありません。

 よほど御性質に問題がない限り、ベン殿下の皇位継承は揺るぎません。

 御性質も陛下とカチュア様の御子です、まず問題が起こる事はありませんよ」


「分かっております、母上。

 正直皇位に野望がなかったとは申しません。

 虎獣人族のリーダーは純血種であるべきだと思っていました。

 私の子供が、他の皇子達に劣るとは思っていませんでした。

 カチュア様の皇子にも勝てると思っていました。

 ですが、この現実を見れば、夢など見れません」


 アレサンランド皇国の側室筆頭、いや、唯一の側室で後宮第三位のアンネの目の前には、圧倒的な身体能力を使って、側近の混血虎獣人族と戯れるベン皇子がいた。

 一歳の年齢差を割り引いても、自分の子供が足元にも及ばないのが分かる。

 魔力を使っているからだとは分かっていたが、魔力も実力の内だと考えられる公平さがアンネにはあった。


 アンネは逸早く考えを切り替えた。

 全ての種族を束ねる皇位を望むことは、子供達を殺すことになると理解した。

 それよりは、純血種虎獣人族の王位を狙うことにした。

 以前はウィントン大公国が虎獣人族の国で、リーダーは大公だった。

 できればウィントン大公国の大公位を子供の与えたかった。

 最低でも、全ての子に公爵位を与えたかった。


「皇帝陛下も意味のない争いは望んおられません。

 御自身が大公となられた時のように、圧倒的な実力差で、争いが殺し合いにならないようにしたいそうです。

 私も孫達を死なせたいわけではありません。

 競争をするなとは言いませんが、殺し合いにならないように、アンネが気をつけないといけませんよ」


「はい、母上。

 我が子達にはウィントン大公位を目指させます」


「そうですね、それがいでしょう。

 陛下の望みは、皇室と皇国の繁栄です。

 カチュア様の望みは、家族仲良く暮らす事です。

 それを忘れなければ、孫達も天寿を全うすることができます」


 そう言うマリアムも、全く野心がなかったわけではない。

 孫の中から皇位を継ぐ者が出てくると思っていた時期もあった。

 後宮総取締の眼で公平に見比べても、自分の孫は他の皇子達よりも秀でていた。

 ベンに魔力がある事が判明するまでは、公平に競争しても、孫の誰かが皇位を継げると思ったいた。


 だがベンに魔力がある事が分かってからは、諦めるしかなかった。

 それほどカチュアから受け継がれた魔力は圧倒的だった。

 今なら、後宮総取締の権力をなりふり構わず使えば、カチュアとその子供達を皆殺しにすることができる。


 だがそんな事をすれば、皇帝陛下の逆鱗にふれ、孫達も含めて一族一門皆殺しにされることは明らかだった。

 皇位を孫達に与えるためには、皇帝アレサンドも同時に殺さなければいけない。

 アレサンドの乳母だったマリアムには、皇帝暗殺など考えられない事だった。

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