第78話

「どうだ、新たな選考方法は思いついたか」


「はい、実戦並みの試合を行うのは今まで通りですが、今後の皇帝陛下には、学問も必要になると思われます。

 問題は学び覚えるべき学問のレベルでございます。

 絶対に覚えなければいけない、覚えていなければ皇帝になれない学問。

 覚えている方がいいが、覚えていなければ大幅に減点されるも、覚えなくても皇帝に成れない訳ではない学問。

 覚えていなくても減点されないが、覚えていれば加点される学問。

 その境界線をはっきりしなければなりません」


 ある側近が提案してきた。

 普段は目立たない、特別言葉数も多くない、戦闘力も並の者だ。

 だが、皇帝アレサンドが大公国の一公子であった時から、常に側に寄り添い陰日向なく使えてきた、忠臣だった。

 抜きんでいた所がないために目立たず、ずっと忠臣として遇されていただけだったが、何度もの政変を経て、側近に取立てられることになった。


 その側近が、自分なりに考えた政策を提案してきた。

 皇帝が習得すべき学問を三段階に分け、しかも人族の考えた図書目録にあわせた分類までしており、とても分かり易くなっていた。

 彼は、大公国が大きくなるに従い、虎獣人族の王に求められる才能実力が変化している事に気がついていた。

 普段は目立たない男だったが、忠誠心は人並み外れてあり、コツコツと次期皇帝に必要になるであろう事を調べ分類していたのだ。


「うむ、よく纏まっている。

 他に新たな選考方法を考えた者は提出せよ。

 文書に纏めていない者でも、口頭で発言してもよいぞ」


 皇帝アレサンドが水を向けると、提出された策に触発され、実際には何も考えていなかった重臣が、口々に学問の大切さを訴えた。

 その全員に皇帝アレサンドは詳しく質問したが、元々何も考えていなかった重臣は、ろくに答えられずに馬脚を現すことになった。


「皇帝陛下、こちらが同じように分類した書類でございます。

 大きな違いはありませんが、人族の王が覚えるべき学問を参考にしていますので、絶対に覚えるべき学問が比較的優しく少なくなっております」


「うむ、境界線を引くのが難しいな。

 我らは人族に比べて学問よりも身体能力を優先してきた。

 だが、だからといって、いや、だからこそ、学問の基準を人族の王よりも簡単にするなど、絶対に嫌である。

 身に付けるべき身体能力の最低基準と同じように、皇帝に求められる基準をそれぞれが考えて提出せよ」


 皇帝アレサンドは側近忠臣重臣に厳しく命じた。

 側近忠臣重臣だけでなく、全貴族士族にまで献策するように命じた。

 虎獣人族の王であった大公ではなく、全種族の代表である皇帝として、広く考えを聞こうとしたのだ。

 皇帝アレサンドは、カチュアを喜ばせるために、混血のベンやリドルに有利な条件を整えようとしていた。

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