第74話

「皇太子選びについて新たに考えてもらう。

 今のままでは、朕が弱った時に皇帝争いが激化する。

 朕の時のように圧倒的な能力差があればいいが、なければ過去何度も繰り返してきた血みどろの争いになる。

 そうなればせっかく皇国が瓦解してしまう。

 皇国を維持し、虎獣人族の支配体制を続けるための後継者選定方法を献策せよ」


 アレサンドは珍しく詐術を使った。

 本当は既にカチュアに新しい方式を行うと約束しているのに、それを黙って側近忠臣重臣に献策を求めたのだ。


 だが集まった者の半数は、以前と顔ぶれが違っていた。

 忠臣全員と側近半数は残っていたが、重臣全員と側近の半数が入れ替わっていた。

 私利私欲や自分の主義思想で皇国の政を行おうとした者は、役目を解かれた上で厳罰に処せられた。


 傍系王族や譜代功臣家の時とは違って、家を潰され処刑までされる事まではなかったが、所領に戻ってのんびりと暮らさなければいけなくなった。

 もし少しでも叛意を持っていると疑われたら、皇国軍に滅ぼされるか、一族一門家臣領民に謀叛を起こされて死ぬかだ。

 彼らは常に怯えながら余生を過ごさなければいけなかった。


「ではこうしてはいかがでしょうか、皇帝陛下」


「何かよい方法があるのか、エリック」


 アレサンドの望みを推測した、筆頭大臣で元傅役のエリックが、自分なりに考えた策を披露した。

 エリックに引き続き、アレサンドの幼少期から近習として仕えていた忠臣と側近が、次々と自分なりに考えた策を披露した。


 最初は様子を見ていた新顔の重臣と側近が、遅れて献策を始める。

 アレサンドの考えを読んで、それに従った献策ををしておもねろうとする者もいれば、堂々と自分の信念を語る者もいる。

 重臣の半数は、弱肉強食を撤廃して人族と同じ長子相続制を提案した。

 彼らは自分が老いている事を悟っていて、子弟や一族に下克上されるのを恐れていたのだ。


 彼らは、大公国時代よりも広大な領地と多くの領民を手に入れていた。

 それこそ、弱小草食獣人大公国に匹敵する領地と領民を得ていた。

 それを手放すのが惜しくなっていたのだ。

 獣人の人の部分が表に出てしまって、未練たらしく汚い献策をした。

 だがそれが、争いを起こさずに後継者を選ぼうとする機運ともなっていた。


 徐々に後継者選定方法が固まってきたが、アレサンドの望む方法にまでは届いていなかったので、更に考えてくるように命じて下がらせた。

 そして本当に心から信頼するエリックとマリアムに相談した。

 更に妻妾を代表してアンネの意見を聞き、側近忠臣重臣を誘導する案を決めた。


 

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