第73話
カチュアはアレサンドのために最高の魔晶石を創りました。
初級下の魔術を千万回使えるほどの高品質魔晶石を、毎日1個創りだした。
その魔晶石は、アレサンドの守護魔晶石とされた。
魔法が使えない虎獣人族のアレサンドでは、敵の魔法攻撃は俊敏さで避けるか、体力と精神力で耐えるしかない。
大公まではそれで十分対応していたが、皇帝となって、敵の数が飛躍的に増大した今では、魔術による防御も必要となる。
今は人間の魔術師や魔道具に頼っているが、人間の魔術師は心から信用できない。
それに今ある魔道具では、カチュアの魔晶石を敵が手に入れた場合が危険だった。
だから、カチュアが創り出せる最高級の魔晶石を使って、防御の魔防具を創りだす必要があった。
「ああ、カチュア。
朕のために毎日魔晶石を創ってくれているんだね。
ありがとう、カチュア。
何か欲しい物はあるかい?
朕が手に入れる事ができる物なら、何だってあげるよ」
「別に欲しいモノなどありません。
私が欲しいのは、仲のよい家族です。
兄弟姉妹が争う事のない家庭です。
アレサンドにそれをお願いしてもいいのですか?
虎獣人族の根本にかかわる問題ではありませんか?」
カチュアのお願いにアレサンドは心底困った。
弱肉強食は虎獣人族の基本的な本能と言ってもいい考え方だ。
集落や国を作るようになって、殺し合いは少なくなったが、強い者が家を継ぎ、弱い者が家を出るのが常識だ。
大公国が形成される頃には、弱い兄弟姉妹を家臣として使う方が、家を繁栄させるという事が理解されたが、それでも争って強い当主を選ぶという基本は変わらない。
一旦当主を決めてからも、当主が弱くなれば子供や兄弟姉妹からの下克上が行われるし、暗殺も横行していた。
それを家族仲良くと言われても、アレサンドも困るのだ。
「分かったよ。
だけど、全員が完全に仲良くというわけにはいかないよ。
でも仲良くなれる兄弟姉妹は、傷つけ合いような競争は極力やめて、能力を測る形で順位付けするようにしよう。
だけど、どうしても正々堂々戦って強弱を決めたいという兄弟姉妹は、競争させなければいけない。
それは分かって欲しい」
アレサンドは英断をくだした。
まだカチュアが妊娠中で、つがいの呪縛が発動していない状態で、カチュアの願いを皇帝として冷静に考え、皇国の分裂と弱体化を防ぐのに必要だと考えたのだ。
アレサンドが圧倒的な強者である間は、皇国は望むまま膨張する事が可能だ。
だが、子供達が成長し、アレサンドを斃して皇位を手に入れようとしたり、皇国を分裂させてでも皇位を手に入れようと兄弟姉妹で争ったら、皇国は元の大公国の領地すら維持できなくなってしまうかもしれない。
後継者の選定方法は、皇帝にとって避けて通れない問題だった。
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