第69話

「アレサンド、地下に畑や牧場を作りたいの」


「皇都の地下にか?

 いや、まあ、う~ん。

 カチュアが朕にお願いすることなんて滅多にないから、聞いてあげたいんだけど。

 う~ん、こまったなぁ」


 皇帝アレサンドは心底困っていた。

 カチュア悪女なら、つがいの呪縛が発揮できる時にお願いしただろう。

 子供を身籠らないようにして、常に皇帝を意のままにできるようにしただろう。

 だがカチュアにはそんな悪意も欲もなかった。

 あるのは母性愛と家族愛だけだった。


 だから普通にお願いした、策も何も弄さずに、ただお願いした。

 カチュアの思いは、魔術を覚えることだった。

 家族を、子供を守りたいという想いだけだった。

 その為には、どうしても強力な魔法を覚えたいと思っていた。

 だが、できる事なら、襲ってきた相手も殺さずにすませたい。

 それには圧倒的な魔力と、その魔力を使いこなす技術が必要だった。


 破壊攻撃系の魔術を練習するには、後宮は不向きだった。

 だが皇帝アレサンドがカチュアを後宮から出す事はない。

 わずかでも暗殺の危険がある場所にカチュア移動させることは、絶対にない。

 そこでカチュアが考えたのは、自分で後宮に練習場を作ることだった。

 同時に万が一の籠城時に、自給自足の体制を確立することだった。


 後宮、皇宮、皇城、皇都といった、城砦や防壁の基礎に悪影響を与えないように、強化された岩盤を創り出す計画だった。

 その為の魔術は既に会得していた。

 岩盤に悪影響を与えないような階段で、地下深くまで降りられるようにして、岩盤の下に耕作地と牧場を創り出そうとしていた。


 耕作地と牧場の一角には、魔術の練習場を創り、光魔術と火炎魔術で耕作地と牧場の環境と整えようと考えていた。

 カチュアの魔力なら、ほぼ一日中広大な皇都の範囲を照らし続ける事ができる。

 そのような考えを、マリアムとアンネに話した。

 聞いたマリアムとアンネが、カチュアの願いを叶えるべく、正式な嘆願書計画書の形を整え、政宮の側近忠臣重臣に提出した。


 皇帝アレサンドから何も聞かされていなかった、側近忠臣重臣は最初驚愕したが、同時に皇帝がカチュアの願いを聞き入れなかったことに安堵していた。

 全ての重臣と一部の側近が、皇帝の反応に気を大きくして、後宮がカチュアの発案として提出してきた、嘆願書計画書を却下しようとした。


 だがこれを、全忠臣と大半の側近が厳しく叱責した。

 計画内容が皇国のためになるものなのに、私情で潰すような者に側近の資格も重臣の価値もないと、徹底的に論破した。

 その急先鋒となったのが、皇国で不動の地位を築いたエリック筆頭大臣だった。

 エリックはアレサンドにも強く諫言した。

 カチュア皇后を、危険が及ばない範囲で皇国に貢献させられよと、それこそがカチュア皇后を護る力になると、強く諫言した。

 


 

 

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