第56話
「ベン、少し遊びましょうか?
これをさっきのように叩いてみてね。
痛いのは嫌だから、優しくできる?」
カチュアほんの少しだけ考えて、ベンと遊ぶ時に使う紙風船をふくらませた。
普段はベンが直ぐに潰してしまうので、紙風船ではなく天然ゴムのボールを使う。
でも今は、ベンに力加減を教えたいので、紙風船を使う。
カチュアの幼い頃は、紙風船もゴムのボールも与えてもらえず、庭の落ち葉を舞い上げてひとり遊びしていた。
ベンは顔を輝かせて喜んでいる。
リドルが生まれてから、カチュアの愛情が離れてしまったと、とても哀しく寂しく感じていたベンにとって、カチュアに遊んでもらえる時はとても大切な時間だった。
完全獣形態なら激しく動けるようになったベンは、リドルが生まれるまでは、レオや側近達と遊ぶことを優先していたが、いざカチュアがリドルに愛情を注ぐと、激しく嫉妬していたのだ。
その嫉妬が、ベンがカチュアから受け継いだ魔力を発現させた。
カチュア同様、正式に習ったわけではないので、ただ魔力を叩きつけるだけの稚拙な行為だが、明らかに魔力だった!
カチュアが宙に上げる紙風船を、潰さないように真剣に力を加減して魔力で叩き、カチュアのほうに弾くのだ。
「なんだこれは!
魔力か?!
ベンに魔力の才能があるのか?!」
熱血漢のアレサンドは、普段からうるさい所がある。
特にカチュアの関係する時は、、耳障りなくらいうるさい時がある。
だが、ベンやリドルに関しては、それほど愛着を感じていない。
むしろベンとリドルがいると、カチュアが愛情を受け入れてくれないので、嫉妬を感じるほどだった。
だが、自分の子供が、次期皇帝になるかもしれない皇子が、人間の混血とはいえ魔力を持っているとなれば、優先して教育を施そうとするのは当然だった。
人族との混血だから、純血種の虎獣人族とは体力で劣ると考え、皇帝候補から外していたが、純血種の半分しか基礎体力がなくても、魔法が使えて体術と組み合わせて使えるとなれば、無敵の戦士に成れるかもしれないのだ。
「はい、ベン皇子には魔法の才能がおありでございます。
わたくしも虎獣人族に魔法の才能を発現するなど初めて聞きました。
カチュア様との混血だからかもしれませんが、できるだけ早くよい指導者を迎え、才能を伸ばさねばならないと思ったのです。
これは虎獣人族の、いえ、皇国の未来を変える一大事でございます」
「待たれよ、これは非常に危険な事でもあるぞ!
ベン殿下が魔法の才能があるとなれば、なんとしてでも幼いうちに殺そうとする者が現れるかもしれないのだぞ。
この情報はうかつに広めるわけにはいかんぞ!」
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