第57話

 アレサンド、エリック、マリアムの三人は、ベンが魔法を使えることを知っている侍女女官を全員集めて緘口令を敷いた。

 ベンの暗殺を防ぐためには、絶対に秘密にしなければいけない事だった。

 マリアムの実娘アンネにも話せない事だった。


 アンネの忠誠心を疑うわけではないが、母性の本能には逆らえない部分がある。

 獣人族の獣由来の本能は強力なのだ。

 アレサンドの愛情がカチュアに注がれているのは分かっていた事だが、自分の子供は皇帝位を継ぐ可能性が高いと思っていたのだ。

 それが皇帝位までカチュアの子供が継ぐとなれば、母性本能から嫉妬し、殺害に走る可能性があると恐れたのだ。


 三人の間で問題になったのが、ベンに魔力がある事を隠しつつ、魔術の訓練をする方法だった。

 効率よくベンの才能を伸ばすためには、よき指導者を招くしかない。

 ベンを安全な後宮から出すわけにはいかないから、指導者も女性に限られる。

 しかも虎獣人族には魔法の才能が全くないので、人族かエルフ族になる。

 エルフ族は高慢で招聘に応じないだろうから、人族になってしまう。


「そういえば、カチュア陛下も魔法を使っておられなかったか?」


 不意にエリックは疑問に思い、口に出していた。

 カチュアはベンが魔力を使う事に全く歓喜も疑問も感じていなかった。

 それどころか、ベンが紙風船に魔力を叩きつけている時に、リドルを抱きながら、ベンと同じように魔力で紙風船を叩いていた。

 次期皇帝候補に魔力がある事に眼を奪われて見過ごしてしまったが、カチュアにも魔力があり使っていたのだ。


「おお、そうだ!

 確かにカチュアも魔力を使って紙風船を操っておったぞ!

 さすが朕のつがいである!」


 エリックの言葉にアレサンドが手放しで喜ぶ。

 だがそれではいけないのだ。

 皇国のためにカチュアの魔力をどう利用するかが大切なのだ。


「では、カチュア様に魔術を教えるという体裁で、女性指導者を招きましょう。

 それならば、しばらくは秘密にできると思われます。

 こうなればしかたありません。

 カチュア様についてきた人族の侍女を今一度召し出しましょう。

 子供も生まれております。

 ベン様には混血以外の人族側近も必要です」


 マリアムの提案をアレサンドとエリックが真剣に検討した。

 女性魔術師をカチュアの指導者として招聘し、カチュアがベンとリドルをあやし抱きながら指導を受けるなら、隠蔽にもなるし復習にもなる。

 カチュアは基本優秀なので、カチュアが覚えたことをベンに教える事も可能だ。

 いや、カチュアの元侍女が後宮に戻れば、彼女らが覚えベンに教える事も可能のように思われたのだ。


 

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