第55話

「これは!

 なんということでしょう!

 陛下を、皇帝陛下をお呼びして。

 皇国を揺るがす重大な事が判明したと伝えて来てください。

 皇国の興廃に係わるような重大な事だとお伝えしてください。

 できればエリック大侯爵にも一緒に来てもらって下さい」


 想像外のとてつもない重大な事だった。

 虎獣人族の誰も考えていない事だった。

 皇帝以外の男性を、中宮ではなく後宮に迎えるほどの重大な事だった。

 

「何事が起こったのだ、マリアム。

 政務の途中の朕とエリックを同時に後宮に呼びだすなど、他の者共が驚愕しておったぞ」


 皇帝アレサンドが顔を引き締めて後宮に戻ってきた。

 寸刻もカチュアの側を離れたがらないアレサンドを、エリックが何度も中宮から使者を送って、ようやく政宮に迎えて小一時間しか経っていないのだ。

 嫌々政宮に行ったアレサンドも機嫌が悪いが、エリックも内心苛立っている。


 マリアムの事だから、後宮の権力と権威を政宮の側近忠臣重臣に見せつけるために、些細な事で呼びだしてはいないと分かっている。

 だが、その分、どれほどの重大な事かと思えば、顔も心も引き締まる。

 何を言われ、何を見ても動揺しないように、臨戦態勢で臨んでいた。


「まあ!

 政宮に向かわれたのでありませんか?

 どうして戻って来られたのですか?」


「心配はございませんわ、カチュア様。

 私が陛下とエリック卿にお願いしたのです。

 先程のお遊びをベン皇子としてくださいますか?」


「お遊びですか?

 あれはお遊びではなく、リドルにおいたしようとしたので、たしなめただけです」


「そうでございましたわね。

 でも、またやっていただけますか?」


「ベンは聞き分けのよい子ですから、もうやらないとおもいますよ」


「ですが、お願いします。

 試して下さい、カチュア様」


「マリアムがそこまで言うのならしかたありませんね」


 カチュアがリドルにお乳をあげだした。

 アレサンドもエリックも全く気にしない。

 虎獣人族は基本的に完全獣形態で子育てするので、普段は泰然自若なエリックが慌てて視線を外し後ろをむいた。


 レオと遊んでいたベンが、哀しそうな羨ましそうな目でカチュアを見る。

 それでも、カチュアが言ったように、もうおいたをしない。

 だが、それでは、マリアムがアレサンドとエリックを呼んだ意味がない。


「カチュア様。

 さきぼどのベン皇子のなされた事を、お遊びでする事はできませんか?

 皇子としてとても大切な才能だと思うのです。

 陛下とエリック卿にお見せしたのです」


「そうなのですか?

 ではやってみますね」

 

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