第48話

「アンネさんは苦しくないの?」


「少しだけですよ。

 虎獣人族は人族ほど悪阻が強くでないようです」


「それは羨ましいわ。

 この子は悪阻が辛かったのよ」


 カチュアとアンネが仲良く話している。

 臨月のカチュアと妊娠中期のアンネの周りには、とても多くの侍女が集まり、何かあれば直ぐに対応出来るようにしていた。

 

 普段なら常にカチュアの側を離れないアレサンドが、選び抜かれた愛妾達を相手に子作りに励んでいた。

 皇帝にふさわしい後継者が必要な事もあったが、皇帝になれなくても、諸侯王や大公や公爵と、虎獣人族の支配者層を強化しなければいけなかった。

 連合皇国内の人口比で、虎獣人族は圧倒的に少数になってしまっていた。


 一応連合皇国という体裁をとってはいるが、虎獣人族が支配者なのだ。

 その数が余りに少ないと、他の獣人族や人族が、その間隙をついて勢力を伸ばそうとするのはしかたのないことだった。

 一番人口の多い人族が、カチュアの絶対的な影響力を背景に力を伸ばしている。

 特に傍系王族と譜代功臣家が没落してから、その傾向が強かった。


 だが、傍系王族と譜代功臣家が滅んだとはいっても、カチュアに対する警戒心が虎獣人族から無くなったわけではなかった。

 虎獣人族以外の、新たに連合皇国に参加した草食獣人族達も、つがいの特性を熟知しているので、カチュアの力を背景にする人族を警戒していた。


 何よりも大きかったのは、連合皇国の圧倒的な力を知った肉食系獣人大公国が、連合皇国に参加して、内部から連合皇国を乗っ取ろうと画策していた事だった。

 彼らからの連合皇国参加の打診があったが、アレサンドと側近忠臣重臣達は彼らの思惑を察知して認めていなかった。

 だが、それでは侵略をしなければこれ以上の発展が望めない。


「そうなのですね。

 ではカチュア様の苦しみが分かる人族の侍女を召し上げられますか?」


 アンナは心底カチュアの事を心配していた。

 だが同時に、人族の扱いにも困っていた。

 カチュア個人の事を考えれば、人族の侍女を後宮に入れるべきだった。

 だが同時に、多くの虎獣人族の人族の勢力増強を心配している事も理解していた。

 だから全ての事をカチュアにゆだねようとした。


「でも、それでは、また争い事が起こってしまうのではありませんか?

 私はそのような事は望みません。

 私の事を大切に思ってくれる人が、人族だとは限りません。

 これまで通り、アレサンドとマリアムさん達が認めた者を後宮に入れてください。

 ただ、少しだけ願いがあるとしたら、ベンの心が一番わかるかもしれない、虎獣人族と人族の混血の子を、ベンの側近にして欲しいです」

 

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