第47話

「少し大きくなったかい?」


「はい、アレサンド。

 最近は少し動くのですよ」


「どれどれ、ちょっと聞かせてくれ」


 アレサンドはお腹の中に子供に愛情があったわけではない。

 虎の性質を受け継ぐ虎獣人族の男性には、基本父性愛はない。

 人族の性質の中にも、父性愛はない。

 ただ人間には群れを作る習性があるのと、経験教育された道徳と言うのか、群れの掟というのは理解し守ることができる。


 アレサンドにも大公国を継ぐべく教育されたモノ、努力して獲得したものがある。

 だから後継者を育てなければいけない事は理解しているし、種族保存の本能で子作りには熱心だ。

 特にカチュアはつがいなので、その愛情と種族保存本能は溢れんばかりで、カチュアがよろこぶ事なら、周囲の視線など全く気にしない。


 本能的にはカチュアとだけ生殖行動したいのだが、妊娠中のカチュアに厳しく拒否されてしまった。

 同時にアンネとも子供を作るように言われてしまった。

 その事は以前から決まっていた事ではあるが、傍系王族や譜代功臣家を粛清したので、アレサンドはなくなったと思っていた。


 だがよく考えれば、一旦側室としておいて、一度も抱かず子供も作らないというのは、あまりにも酷い態度だ。

 カチュアに言われて、乳妹アンネに甘え過ぎていたと思い反省した。

 同時に、大公国を継ぐべく培った常識がようやく浮かんできた。

 カチュアが妊娠中で、つがいのフェロモンが少し変化しているからなのかもしれないが、普段よりも支配者らしい考えが浮かんでくる。


 アンネとの間に子供を作り、純血種の虎獣人族として、連合皇国の皇帝にふさわしい後継者を育てなければいけない。

 大公国に生まれたアレサンドでさえ、兄弟姉妹で弱肉強食の競争をしなければいけなかったが、それが王国、大王国、皇国を継ぐのにふさわし後継者を選ぶ競争となると、何人の候補者が必要か分からない。

 最低でもアレサンドと同等の能力を持った後継者が必要だ。


 優秀な後継者が欲しければ、できるだけ多くの子供を作り、最高の教育を施し、実戦経験を積ませなければいけない。

 あまりに経験不足の子供に皇帝位を継がせるわけにはいかない。

 できるだけ早く、たくさんの皇子皇女が必要な事は、粛清した傍系王族や譜代功臣家が言っていた通りだった。


 だが母親になる虎獣人族が誰でもいいわけではない。

 皇国の将来を任せるにふさわしい皇子皇女ではなく、とにかく自分の子に皇帝位を継がせたいと思うような女に、自分の子種を与えるわけにはいかない。

 アレサンドはアンネ相手に子作りをすると同時に、子作り候補にふさわしい女性探しを始めた。

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