第42話
「カチュア、身体に不調はないか?」
「ご心配してくださってありがとうございます。
お陰様で健康にさせていただいております」
「そうか、それは何よりだ」
そう言うアレサンドの眼は、欲望に満ちていた。
子供を生んだ幸福感に満ちているカチュアは、とても美しい。
少し肉付きがよくなり、幼さが残るなかに肉惑的な魅力もでてきた。
アンバランスな魅力まで備えているのだ。
それでなくても、つがいとして常に誘惑されているのだ。
カチュアに拒否されない限り、人前であろうとなかろうと、常に狂おしいまでに愛したいと思っているのだ。
そもそも後宮では性愛の記録をとっているので、二人きりで愛することがない。
「ベンはどこにいるのだ?
カチュアがベンを手放しているなど珍しいではないか?」
「ベンはアレサンドの血を色濃く受け継いでいるようです。
生れたばかりなのに、元気に動き回るのですよ。
私が抱いてばかりいると、むずかるのです。
今はレオが遊んでくれています。
乳母達が見てくれていますから、何の心配もないのです」
そう言うカチュアは、ほんの少し寂しそうだった。
その姿があまりに魅力的で、アレサンドの情欲は抑えがたいものとなった。
そもそも虎獣人族は、それほど子供の心配をしない。
子供の天敵が多かった頃ならともかく、それなりの集落を形成するようになってからは、虎獣人族の子供を狙いうような命知らずはほとんどいない。
「カチュア!」
アレサンドはもうどうしようもないくらい欲望が高まり、カチュアの手を取った。
ここでカチュアが拒否したら、アレサンドはすごすごと引いただろう。
だがカチュアは拒否しなかった。
人間族では考えられないくらい早くひとり遊びを始めた、ベンに寂しさを感じたのかもしれないし、アンネに気を使ったのかもしれない。
困った事に、アレサンドは未だにアンネを抱いていないのだ。
自分を愛し大切にしてくれていることを、カチュアはうれしく思っていた。
だが同時に、この状態では虎獣人族が自分を敵視すると、危機感も持っていた。
その敵意が自分だけに向けられるのならいいが、ベンにまで向けられるのがとても怖かったのだ。
それに、これではアンネが可哀想すぎる。
アンネの立場が悪くならないように、他の側室が押し込まれてこないように、一日でも早くアンネに子供を生んで欲しいと思っていた。
だがそれを、カチュアがアレサンドに言うわけにはいかなかった。
カチュアがアンネを抱くようにと言って、アレサンドがその通りにしたら、カチュアは危機感を持った虎獣人族から殺されてしまうかもしれない。
だから、二人目の子供を妊娠することで、自然とアレサンドがアンネを抱くように仕向けたかった。
エリックとマリアムからそう助言を受けていた。
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