第41話

「宗主国だった人族王国は動いているか?」


「かなり苛立っているようです。

 元属国周辺に王国軍や貴族軍を集結させている宗主国が多いです。

 宗主国が動いていないケースもありますが、そういう属国は宗主国以外の隣国から圧力をかけられています。

 いかがなさいますか?」


 皇帝アレサンドは、属国になった弱小人族王国を心配していた。

 カチュアから「属国の人達も本国の人達と同じように護ってあげてね」と言われたので、とても気にしていたのだ。

 カチュアは人族も獣人族も区別して言ったわけではない。

 八つの人族属国も、十二の獣人族大公国も、本国と同じように護ってあげて欲しいという気持ちで言ったのだ。


 だが、現実の状況が誤解を生んでしまう。

 弱小とはいえ獣人族の大公国は、ちゃんとした独立国だった。

 肉食獣人族の大公国や人族の王国を警戒してはいたが、宗主国に莫大な貢物を送ったりはしていなかった。


 だが、弱小人族王国は、宗主国に莫大な貢物をしていた。

 その負担は大きく、国民は飢え、時に奴隷として売られていた。

 そうしなければ払えないような、無理な貢物を要求されていた。

 もう国が立ち行かなくなる寸前だった。

 なかには実子の王子を廃嫡にして、宗主国の王子を無理矢理娘婿に押し付けられ、後継者にさせられる国さえあった。


 だからこそ弱小人族王国は、虎獣人が建国した連合皇国に参加したのだ。

 どうせ属国になるのなら、少しでも貢物が少ない方がいい。

 領地を接していない、軍事的圧力の少ない国の方がいい。

 領地を接している強大な前宗主国は怖いが、何もしなければ早晩国を乗っ取られてしまいそうなので、一か八かの決断だったのだ。


 だから、カチュアが公平に心配した言葉でも、実際に恩恵を受けるのは、人族だけになってしまう。

 これがまた虎獣人族に誤解されてしまい、騒乱の種になる可能性があった。

 誤解が不安と疑念を生み、カチュアに対する敵意になる可能性があった。


「派遣先の人間を害する可能性のない、信頼できる戦士団はいくつある?」


「八つは確保しております。

 予備を入れれば十五はございます」


「二十三個戦士団二万三千兵か。

 元宗主国や恐れを知らぬ馬鹿王国に侵攻させられる戦士団はあるか?」


「戦士団よりも諸侯軍を動員した方がよろしいでしょう。

 困窮する人族諸侯や草食獣人諸侯に、役職手当を出して動員した方が、彼らの財政が楽になります」


「分かった。

 彼らだけで戦争を回避できるならそれでいい。

 だが兵力と威が足らないのなら、肉食獣人諸侯を国境線に駐屯させて、強く圧力をかけてくれ」


「承りました」



 

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