第40話

「アレサンランド連合皇国皇帝、セントウィン大王国大王、ウィントン大公国大公、マクリンナット公爵家公配、アレサンド陛下のご入場!」


 文武百官どころか、千を超す王侯貴族が集まり、皇国序列と身分に応じて並んでいた者達が、一気に緊張した。

 以前から決まっており、全貴族士族がハレの今日の日にあわせて準備していたが、それでも、失敗しては家の破滅とガチガチになっていた。

 誰もが予定通りに式次第に行おうとしていた。


 アレサンドは既に即位宣言を行い、皇帝として政務を行っていたが、表向きの即位式は今日となっていた。

 八つの弱小人族王国と、十二の弱小獣人大公国が皇国に参加することになり、その調整と準備に時間がかかったためだ。

 それを待っているのはアレサンドの性格に合わないので、大々的な行事は後回しにして、簡素な神儀だけで即位宣言をすませたのだ。


「アレサンランド連合皇国皇妃、セントウィン大王国大王妃、ウィントン大公国大公妃、マクリンナット公爵家公主、カチュア陛下のご入場。

 アレサンランド連合皇国皇子、セントウィン大王国大王子、マクリンナット王国国王、ウィントン大公国大公子、マクリンナット公爵家公子、ベン陛下のご入場」


 カチュアがベンを抱いて入場してきた。

 今度の王侯貴族の反応は、獣人族と人族で全く違った。

 それぞれの立場で喜怒哀楽の反応が違う。

 怒と楽の反応をする者はほとんどいないが、喜と哀の反応をする者は結構多い。


 特に人族の王侯貴族は、期待と喜びを感じている者が多い。

 それぞれの事情で仕方なく皇国に参加しているが、肉食の虎獣人族が建国した皇国に所属するのは、恐怖感があるのだ。

 だが、人族との混血の皇子が力を持ってくれるのなら、これほどの安心感はない。

 カチュア皇妃が皇帝のつがいで、絶対的な権力を持っているという噂を聞いても、愛妾ができれば平気で王妃を切り捨てる人族は、獣人の習性が理解できていないこともあり、安心感にはつながらないのだ。


 それよりは、ベン皇子が誕生直後に王に封じられ、広大な領地まで与えられている方が安心感につながった。

 このまま順調に大王太子や皇太子に就任してくれたら、人族が食材奴隷にされる心配がなくなるので、祈るような気持ちでベン皇子の入場を見つめていた。


 だが、虎獣人族を代表とする獣人族は、特に虎獣人族は、ベン皇子がこのまま皇太子大王太子に就任するのではないかという疑念を持っていた。

 今迄の話し合いで、アンネが生んだ純潔虎獣人族の皇子が、皇太子と大王太子に就任する約束になっていたが、それを信じきれない事が、暗闘の危険をはらんでいた。


 

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