第35話

「アレサンド陛下、お呼びでございますか?」


「うむ、セントウィン城の後宮を任せたい。

 一応の人材をそろえたが、アンネの眼から見て信頼できる者を選び直してくれ。

 最終的にはウィントン城の後宮と行き来することになる」


「承りました」


 占領した人族四カ国連合の旧領地の統治は着実に進んでいた。

 旧領地をアレサンドの支配下に置き、大王もしくは皇帝にするために、虎獣人族も一致団結して働いていた。

 だがそれはアレサンドに対する忠誠心からだけではない。

 虎獣人族それぞれの欲もある。


 彼らにとっても絶好の機会なのだ。

 侵攻時に手に入れた人族王家の直轄領の半分を、働きによって分配されていた。

 更に爵位も働きによって一つ二つあがっていた。

 特に公爵や侯爵は、独立性の高い大公や大侯といった爵位が得られる可能性もあり、特に虎獣人以外の獣人族にとっては、自種族だけが住む領地が欲しかった。


 彼らの必死の働きもあり、幾人かの虎獣人族と大量の人族貴族士族が処罰された。

 処罰にあたって訴えてきた領民の何割かは移民することになっていた。

 アレサンドの直轄領は飛躍的に増え、アレサンドが創設したセントウィン王家の国内貴族にたいする優位性は、絶対的なものになっていた。


 そこまでの体制を築いてから、首都と王城を虎獣人族が護りやすい小改造をして、いよいよカチュアをセントウィン城に迎えることを考えた。

 だが、それでも、いきなり移動させる勇気はアレサンドにはなかった。

 わずかでも疑念があり、カチュアに危険が及ぶ可能性がある限り、アレサンドがカチュアをセントウィン城に呼ぶことはない。


 そうなると、アレサンドは月の大半をウィントン城の後宮で過ごすことになる。

 それでは内外にセントウィン王国の印象を強く与えられない。

 だから側近忠臣重臣がそろってアレサンドに拠点を変えて欲しいと懇願していた。

 特に大公や大侯になれそうな、アレサンドの一族と有力貴族は必死だった。

 アレサンドに喧嘩を売っても勝てないのは、本能で分かっているだけに、敵対せず協力することで地位をあげられる機会を、逃さないように必死だった。


 カチュアが先に妊娠して、虎獣人族のアンネがまだ妊娠していない状態が、一族と有力貴族の眼の色を変えさせていた。

 自分の一族が、アレサンドとの間に純潔の虎獣人族の王子を生んでくれたら、大王もしくは皇帝の外戚になれるのだ。

 あらゆる手段を駆使して、一族の娘を後宮にいれようとしていた。

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