第36話
「王妃カチュアの働きを称し、マクリンナット公爵位に加え、リンデン公爵の爵位を与え、それに相応しい領地を与える。
これは生まれてくる子供が引き継ぐものと心得よ」
「はい、ありがとうございます、国王陛下」
セントウィン王国国王、ウィントン大公国大公、マクリンナット公爵家公配のアレサンドにとって、これは茶番でしかなかった。
だがそれでも、やらなければいけない儀式でもあった。
今これをやっておかなければ、時間が経ってしまうと、反対派が動き易い状況になっているかもしれない。
人族四カ国連合を併合し、大量の貴族士族を処分し、虎獣人族を筆頭に獣人達に領地と爵位を与えた時に、有力貴族達が反対しにくい時に、カチュアに与える方が弊害が少ないのだ。
本当なら、カチュアとの子供に王位を継承させたい。
だがそれでは、将来虎獣人純潔の異母兄弟姉妹と殺し合いの競争になる。
それはアレサンドにとっては常識なのだが、カチュアが哀しむと言われたら、諦めて別の方法を考えるしかなかった。
そこで考えたのが、元々カチュアが継承していたマクリンナット公爵の爵位に加えて、新たな公爵位を与え、沢山の子供が生まれた時に備える策だった。
セントウィン王国国位とウィントン大公国大公位は、虎獣人族純血種に与えるから、カチュアとの子供には手を出すなというメッセージだった。
いや、強烈な脅しだった。
「更に、マクリンナット公爵位にはギネス伯爵の従属爵位と領地を、リンデン公爵位にはヘイグ伯爵の従属爵位と領地を与える」
「重ね重ねのご厚恩感謝にたえません」
アレサンドの言葉に、不愉快な表情をする虎獣人族もいたが、その数はそれほど多くはなかった。
貴族の常識では、公爵が一つ二つの従属爵位を持っているのは普通なので、それほど反感を買うものではなかった。
むしろセントウィン王国国位とウィントン大公国大公位を与えない事への取引として、当然の事と好意的に受け止められた。
それよりももっと大切な議題が目白押しだった。
何よりも大王を称するのか、大王を名乗らず直ぐに皇帝を名乗るかで、側近忠臣重臣の意見が割れていた。
それを本会議前に調整するためにも、多くの夜会が必要だった。
だがそれにアレサンドはうんざりしていた。
通常の政務も領地が四倍近くになって、いや、それはセントウィン王国になってからで、ウィントン大公国時代と比較すれば、八倍以上になっている。
人口は二十倍以上だ。
それに比例して政務の時間は多くなる。
カチュアとの時間が減って、アレサンドは怒りさえ覚えていたのだ。
そこにエリックが更なる負担を提案してきた。
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