第34話

「陛下、多くの人族貴族士族が降伏を申し込んできております。

 いかがいたしましょうか?」


 元傅役で股肱之臣、シャノン侯爵エリック卿が今後の方針を確認する。

 シャノン侯爵ほどの勇猛果敢な名将ならば、迎撃軍を率いて人族の王国に攻め込み、現地の支配者になる事も可能なのに、アレサンド王の居城をセントウィン城を守り、味方の裏切りにも眼を光らせていた。

 アレサンドは本当によい傅役を得ていた。


「余は殺戮を好む野蛮な王ではない。

 愚かな人族の王達と同等になるつもりなもない。

 無駄な争いをする気はない。

 だが、民を虐げるような貴族士族は不要だ。

 そのような者共に利用され、悪名を受ける気もない。

 何かよい方法はないか?」


「では重臣達が提案している、目付を置く方法はいかがでしょうか?

 人族の貴族士族が問題を起こしたら、目付が報告して処罰するのです」


「ふむ。

 だがそれでは、性根の腐った人族を許す事になる。

 民からの陳情を聞いて裁判を行って、罪があれば処罰するのはどうだ?」


「それがよいと思われます。

 ただ確たる罪科が見つからない場合、訴えた民が貴族士族から処罰される恐れがございます。

 我らを信じて訴えた民を助けるために、移住先を用意いたしましょう。

 そうすれば、恐れる事なく訴えてくれると思われます」


 アレサンドはシャノン侯爵の提案を心から喜んだ。

 勇猛果敢で武闘派のアレサンドは、どちらかといえば民政が苦手なのだ。

 並み以上の能力はあるが、つい武を優先してしまう。

 それを補うのが側近忠臣であり、若く側近忠臣がいないときは、全てシャノン侯爵が補ってくれていた。


 今回もやはり最初に頼るのはシャノン侯爵だ。

 大筋をシャノン侯爵だけと話し合い、その後で側近忠臣を呼んで話し合った。

 アレサンドとシャノン侯爵では思い浮かばない、名案を提案されるかと期待していたが、細々な提案があっただけだった。

 

 正式な目付を置けば、目付と人族貴族士族が結託して民を虐げるかもしれない。

 そこでアレサンドと側近忠臣が信頼する密偵を送って、調査することにした。

 だが密偵を送るのは人族だけではなく、現地に駐留している虎獣人族もだった。

 アレサンドには、どうしてもやらなければいけないと思う事があった。

 カチュアに頼まれた、民を巻き込まないという願いをかなえる事だった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る