第24話
今日は楽しいピクニックである。
ウィントン大公国には色々な風習や行事がある。
支配者層のほとんどが虎獣人族なので、野生的な行事も多いが、若い女性が楽しめる行事もそれなりにある。
カチュアが喜びそうな行事は、春の花見と若菜摘み、初夏の菖蒲祭りと菖蒲湯、盛夏には蛍狩り、秋になれば月見や紅葉狩り、冬は雪見の宴と柚子湯だ。
その中でも特にカチュアが楽しみにしていたのが、子犬レオと一緒に野山を駆け巡ることができる、若菜摘みという名のピクニックだった。
だが大きな問題もあった。
ウィントン大公アレサンドの心配症と独占欲、早い話が極度の溺愛であった。
アレサンドはカチュアを後宮の外に出すことを極度に嫌っていたのだが、反対するとカチュアがあまりにも寂しく哀しそうな顔をするので、渋々認めるしかなかった。
だがアレサンドにも絶対に譲れない一線がある。
自分の眼が届かない時に、カチュアを後宮の外に出すことだけはできなかった。
だが嬉しそうなカチュアの顔を見たい気持ちも大きい。
朝から晩までカチュアの側にいたい気持ちを、つがいの呪縛を、圧倒的な精神力でねじ伏せ、政務をできるだけ早く片付けて、一緒にピクニックに行くのだった。
最初アレサンドはカチュアの側にいられればそれで幸せだった。
カチュアの弾けんばかりの笑顔を見られればそれだけでよかった。
だがそれだけで満足できなくなってしまった。
カチュアと一緒に野山を駆け巡るレオに激しい嫉妬、羨望を感じてしまっていた。
それがアレサンドを変化させてしまった。
アレサンドの側近護衛達に、腰を抜かさんばかりの衝撃を与えることになった。
なんとアレサンドが、完全獣形、虎の姿に変化して野山を駆けだしたのだ。
子犬レオを襲うためではなく、カチュアと一緒に愉しむために虎の姿に変化し、若草が毛を汚すのも構わず、心から楽しげに若草の草原を駆け巡ったのだ。
時にアレサンドは、カチュアやレオに飛び掛かり、組み伏せる事もある。
獣人族の感覚では、真っ裸の男が人間の娘に抱き着いている姿だ。
虎獣人族なら、そのまま人間を喰い殺す事すらある危険な情景だ。
だがカチュアにそんな事は分からない。
嬉しそうに虎姿のアレサンドを人形感覚で抱きしめかえす。
だがレオは全く警戒していいない。
時に一緒に加わって甘噛みまでする。
アレサンドには邪魔者以外の何者でもないのだが、邪険にしてこの雰囲気を壊す勇気などなかった。
アレサンドにとっては至福の時である。
この幸せな時間を永遠に続けるために、精神力の全てを使って欲望を抑え、一緒に野山を駆け巡るのだった。
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