第20話

「戻ったぞ、カチュア。

 治療方法が分かったぞ。

 昔のように話すことができるぞ!」


 ウィントン大公アレサンドは、急ぎウィントン城に戻ってきた。

 少しでも早くカチュアの所に戻りたかった。

 カチュアの舌を治したかった。

 だから占領併合したリングストン王国の事は家臣達に任せた。

 家臣達を信頼していると好意的に考える事もできるし、政務よりもカチュアを優先したと批判的に考える事もできる。

 家臣達はウィントン大公国の将来を考え、判断に苦慮していた。


「ウウウウウウ!

 ワン!

 ワン、ワン、ワン、ワン!

 ウウウウウウ!」


「ああああああ!

 ああああああああ!」


 子犬がアレサンドに敵意をむき出しにする。

 カチュアが子犬を心配して、抱きしめてアレサンドからかばう。

 アレサンドは嫉妬と怒りで子犬を引き裂き喰い殺そうになる。

 が、それではカチュアに嫌われ憎まれると、傅役だったエリックと乳母マリアムに何度も厳しく忠告されていたので、必死で自分を律する。


「子犬。

 よく聞け。

 私はカチュアを愛している。

 カチュアの身体の傷と心の傷を治したいと思っている。

 今から舌を治療する。

 本当にカチュアを愛しているのなら、邪魔するな」


「ワン!」


 子犬が大きくひと声答えた。

 恐ろしく賢いのか、アレサンドの言葉と心を理解したようだった。

 吼えるのを止めて大人しくいしていた。

 それがまたアレサンドの癇に障るのだが、グッと堪えて、治療の準備をテキパキと進めた。


 この点においても、アレサンドは忸怩たる思いをしていた。

 本当は自分でカチュアの治療がしたかった。

 誰であろうと、それが女性侍医であろうと、カチュアに触れられたくなかった。

 だが、アレサンドには治療ができない。

 獣人族は人族など足元にも及ばない身体能力がある分、魔力の才能に恵まれない。

 獣人族で魔力を持つ者は稀なのだ。

 そのなかに、カチュアのかけられた呪いを解呪できる者がいなかった。


「カチュアを治した人間には褒美を与える。

 我らが支配する国になっても、地位も安全も保障する。

 だがカチュアを害したモノは、分かっているな?!」


 アレサンドは、リングストン王国から強制連行してきた、女性侍医と女性魔術師を強烈に脅迫した。

 拷問で人間を生きたまま喰ったことをカチュアに知られないように、言葉に出さず、眼だけで失敗したら喰い殺すと脅していた。

 女性侍医と女性魔術師は恐怖で震えあがっていた。

 誰もが失敗を恐れて治療に二の足を踏んでした。

 だがやらなければ、結果は同じで、喰い殺される運命が待っていた。


「私がやります」

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