第11話

「カチュア様。

 犬でございますよ。

 気に入る犬がいるなら側においてもいいのですよ。

 遠慮せずに仰ってください」


 乳母マリアムの精力的な働きで、多くの犬が集まってきた。

 だがこの国は獣人の国なので、人間のような酷い事をする者は少なかった。

 妊娠中で不安定な母犬を見知らぬ後宮に送ったり、幼過ぎる子犬を母犬から引き離したりする飼い主は少なかった。


 だから後宮に集まった来たのは、十分大きくなった成犬や、独り立ちさせても大丈夫な若犬や、仲のよい夫婦の犬だった。

 カチュアの報告書には、とても幼い子犬が虐殺されたとあったので、子犬を集めようとしたのだが、当初は集めることができなかった。


 それに、思っていた以上にカチュアの反応が悪かった。

 精神的な傷がよほど大きかったのか、反応したらまた犬が殺されてしまうと、壊れてしまった心の奥底で思っているのか。

 カチュアは全く何の反応も示さない。

 犬がいる場所の方を見る事はあっても、そこには何もないような反応だった。


「マリアム、本当に犬で治療することができるのであろうか?

 侍医達の話を疑うわけではないが、あまりに反応がなさすぎる」


「不安になる殿下のお気持ちは分かります。

 確かに効果がない可能性はあります。

 ですが、カチュア様にしてさしあげられる事は、すべてやる。

 できる限りやり続ける。

 その真心が、カチュア様の心を癒すことになるのではないでしょうか」


「そうか、そうだな。

 真心を込めてカチュアの治療を続ける。

 やれる事をやれる限りやり続ける。

 うむ、犬の事もやり続けよう。

 だがやり方を変えるのも、いや、増やすのも大事ではないか?」


「はい!

 犬には可哀想な事ですが、報告書にあったような乳離れ前の子犬も集めましょう。

 それと妊娠中の母犬を集めて、出産を見ていただきましょう」


「うむ、私も可哀想だとは思うが、カチュアの治療には代えられん。

 大公の命令として集めさせる」


「殿下!

 マリアム様!

 ご希望の乳離れ前の子犬が見つかりました。

 検疫が終わったらここに連れてこられます」


「でかした!

 よく探し出した!

 してどのような犬だ?」


「トイプードルと呼ばれているそうでございます。

 元々は人間が鳥を狩る際に、相棒として使っていたそうでございます。

 それが、徐々に人間の貴族が愛玩用に飼いだし、室内で飼いやすいように、どんどん小さくしていったようです」


「なんと残酷な事をするのだ!

 愛玩用など、残虐非道な人族のオモチャではないか。

 人族に捨てられたら生きていく事もできないではないか!

 やはり人族は一人も生かしておけん!」


「殿下!

 カチュア様も人族でございますよ。

 そのような事を口にしていては、カチュア様の心は癒されませんよ」


「……すまん、気をつける」

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