第10話

「そうか?

 そうだな。

 そうしなければならんな。

 それがつがいの責任だな。

 確かに治療が最優先だな。

 切り取られたという舌と、壊された心を取り戻さねばならん。

 侍医を呼べ!」


 ウィントン大公アレサンドは、急ぎ後宮に配属された侍医を呼び出し、カチュアの報告書を読ませ、診察もさせた。

 侍医は女性なのだが、侍医がカチュアの服を脱がせようとしたときに、無意識に牙をむいて唸っていた。

 それを乳母マリアムにたしなめられる一幕もあったが、皆が一丸となってカチュアを治そうとしていた。


「ウィントン大公アレサンド殿下。

 この傷はあまりにも酷いものです。

 明確な悪意を持って、治療が不可能なように呪いの魔道具を使って切っています」


「おのれ、ネーラ!

 今直ぐそっ首はねてくれる!」


「殿下!

 まずはカチュア様の治療と、さっき話したばかりではありませんか!

 今は呪いを解く方法を探すのを優先なさいませ!」


「……そうであった。

 ……分かった

 方法はあるのか?」


 アレサンド大公、マリアム、侍医の三人は、カチュアのために真剣に話し合っていたが、所々でアレサンド大公につがいの呪縛が見受けられた。

 だが幸いなことに、マリアムの諌言に耳を傾けることができる状態でもあった。

 もっともそれがカチュアの事を想い、カチュアを優先する方法であったから耳を傾けたかもしれないという、何ともいえない不安も残されていた。


「ウィントン大公アレサンド殿下は不愉快に思われるかもしれませんが、舌に関しては、男性の侍医だけでなく全魔術師を集めて治療方法を考えるべきだと思います。

 それと心の傷に関しましては、この報告書を見る限り、犬を使ったリハビリが有効かと思われます」


「犬か……

 犬なぁ……

 あまり好きではないのだが、カチュアのためなら仕方ないな。

 どれくらいの犬が必要なのだ?」


「残念ながら、この報告書には犬の種類までは書かれておりません。

 できれば、多くの種類の犬を集めて、カチュア様の反応を見たいです。

 少しでも反応してくれる犬がいればいいのですが……」


 侍医の提案を聞いたアレサンドは、最初嫌そうにしていた。

 虎獣人族の特性なのか、あまり犬が好きではなかったのだ。

 虎獣人族の中には、逆に大量の犬を飼って支配することで満足感を得る者もいた。

 だがアレサンドには支配欲というモノはなかった。

 大公家長男、大公をという重圧の中で生きてきたせいか、支配欲よりも責任感や義務感のほうをより強く感じてしまうのだ。

 そんな中、マリアムは多くの種類の犬を集めるべく、精力的に動いていた。

 


 

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