第3話

「貴様一体何者だ?!

 ハザム大公国に逆らって生きて帰れると思っているのか?!」


「じゃかましいわ!

 騎士なら食人を見逃せないのは当然の事だ。

 まして俺は聖騎士だ。

 この世の邪悪を退治するのが聖騎士の務め。

 邪悪な破壊騎士や女大公を成敗する!」


 凄いです!

 圧倒的です!

 でも凄惨過ぎる戦いです。

 聖騎士様の強さは圧倒的で、ハザム大公国の騎士は虫けらのように殺されます。

 無双状態とはこの事です。


 聖騎士様が縦に剣を振るわれると、斬られた騎士は頭を粉砕され身体が左右に両断されてしまいます。

 聖騎士様が横に剣を振るわれると、斬られた騎士は内臓まで奇麗に断ち切られ、血を噴き出しながら上半身と下半身に分かれます。

 私は呆然と立ち尽くして見ているだけです。


 よく見ていられたと思います。

 普段の私なら、直ぐに気を失っていたと思います。

 それが呆然としながらでも見続けられたのは、半分心が死んでいたのでしょう。

 信じられない話と現実に打ちのめされ、心が半分死んでいたのです。

 それが幸いだったかどうかは別にして、見続けることになりました。


「カチュア公女様でしたね。 

 馬には乗れますか?」


「……いえ、乗れません」


 本来なら、もって礼儀に則った返答をすべきなのですが、とても無理です。


「では失礼ながら相乗りさせていただきます。

 いずれ乗馬も覚えていただきますから、敵の馬を拝借しましょう。

 まあカチュア公女様を乗せるためです。

 女大公も死んだ騎士もよろこんで譲ってくれるでしょう」


「……はい」


 私を和ませるための冗談かもしれません。

 ですがとても笑う余裕などありません。

 ただ返事をすることしかできません。

 私を鞍の前に乗せた聖騎士様は、予備の馬なのでしょうか?

 乗っている馬以外の馬に何か命令されています。


 ヒイヒイヒィィィィイ!


 今度は本気で驚きました。

 予備の馬が、主を失って彷徨っている馬に嘶くと、主を失った馬が緊張するのが分かります。

 中には逃げ出してしまった馬もいますが、十頭程度の馬が、予備の馬に従って近づいてきました。


「いったんこの城からでます。

 カチュア公女様の安全を確保したら、再度乗り込んで女大公の首をもらいます。

 それでよろしいですね?」


「聖騎士様のよきように計らってください」


「結構!」


 私はようやく大公公女らしい返事ができたような気がします。

 あくまでも気がするだけで、本当にできているかどうかわかりません。

 ああ、イスファンは生きているのでしょうか?

 私を助けようとしてくれた、名も知らぬ騎士達は生きているのでしょうか?

 私は本当に無責任な公女でした。

 これからは心を入れ替えて精進しなければいけません。

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