第4話

 ネロ爺さんとポチは意気揚々と帰ってきた。

 ニホンカモシカは最高の状態で持ち帰ることができた。

 正当な値段で売れれば、ネロ爺さんが意地悪爺さんに騙し押し付けられた借金の一割は返すことができる。

 だが、正当な値段で買ってもらえなかった。

 村長の意地悪爺さんに買い叩かれてしまったのだ。


「これは奥山で狩ったニホンカモシカだ。

 村共通の財産だ。

 ネロが好き勝手にできるのもではない」


「……」


 ネロ爺さんには分かっていた。

 村長が裏でつながっている悪徳商人に安く売り、裏金を手に入れることを。

 過去何度も同じことをされていた。

 だが、それでも、争いごとの嫌いなネロ爺さんは、黙って受け入れようとした。


「それはおかしい。

 おかし過ぎるぞ、村長。

 奥山で狩ったモノ、採集したモノは個人のモノだ。

 それを村が勝手に手に入れるなど許されんぞ」


「黙れ!

 農民代表といっても、言っていいことと悪い事があるぞ。

 俺は郡代様から村長に任命されているのだ。

 農民代表ごときにとやかく言われる謂れなどない」


「俺は農民代表として監査役を担っている。

 これまでの帳簿は全て調べた。

 この村の、いや、村長の決めた商人の買取価格は安過ぎる。

 標準価格の一割で買い叩いている。

 これを不正と言わずに何を不正と言うのか!」


「バース!

 俺が不正をしているというのか!」


「おうよ!

 この帳簿が証拠よ!

 おっと、今更隠蔽などできんからな。

 全ての帳簿は写本して隠してある。

 俺が殺されれば、ご領主様に届く手配をしている。

 これでお前の悪事も終わりだ、ハンス!」


 農民代表のバースは我慢できずに全てを話してしまった。

 本当は村長ハンスが処罰されるまで、黙っているべきだった。

 ここで話せば、ハンスが刺客を送るのは当然だった。

 だがどうしても我慢できなかった。

 バースは心底ハンスを恨んでいた。


 バースはネロの幼馴染で友人だった。

 バースの妹アロアとも仲がよかった。

 当然のようにネロとアロアは恋仲になった。

 バースはそれを心から喜び祝福した。

 二人は幸せな家庭を築くと信じていた。

 

 だがそれをハンスが木っ端微塵に壊したのだ。

 ネロを騙して莫大な借金を背負わせただけでなく、アロアを襲ったのだ。

 最初はネロの借金で脅して身体を奪おうとしたが、アロアは頑として断ったのだ。

 ハンスはそれで力づくでアロアを襲った。

 アロアは貞操を守るために舌を噛み切って死んだ。


 普通ならハンスは罰せられるはずだった。

 だが腐れ外道のハンスは、性根の腐ったバースの親父に金を掴ませて黙らせた。

 あんな奴が父親だと思うと、バースは今も眠れなくなるのだ。

 それくらいバースはハンスの事を嫌っていた。

 だから言ってしまった。

 だがそのため、バースは刺客に襲われることになった。

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