第3話

「私のことはネロと呼んでくれ。

 それと恩返しなんてしなくていいよ。

 当たり前の事をしただけだよ」


「いえ、そうはいきません。

 それでは一族の掟に反してしまいます。

 私の事を想ってくださるのなら、どうか恩返しさせてください。

 名前を付けてください」


「やれ、やれ、しかたないね。

 それがコボルト族の掟ならしかたがない。

 だが私には名前を付けるセンスがないのだよ。

 自分で考えてくれると助かるんだが?」


「そうはいきません。

 名前はご主人様に考えていただかないといけません」


「本当にしかたがない奴だな。

 じゃあポチだ」


 不本意だった。

 高貴なる生まれで、しかも女なのに、ポチと呼ばれるのは不本意だった。

 だが自分が無理に願ったのだ。

 今更嫌だとは絶対に言えなかった。


「はい、ありがとうございます。

 ご恩を返すまで私の名前はポチです。

 ご主人様」


「ではポチに命じる。

 恩返しはいいから家に帰りなさい。

 主人として命令するよ」


「それはダメです。

 それだけは従えません。

 恩返しするまではご主人様の側から離れません」


 ネロの思惑は外れた。

 主人になって帰れと命じたら、帰ってくれると考えていたのだ。

 だがそんな都合のいい話があるはずがない。

 コボルト族にとっては、受けた恩の大小に関係なく、それ相応の恩返しをするのは絶体の掟だ。

 そかもポチが受けたのは命の恩だ。

 命を恩を返さずに家に帰る事など絶対に出来なことだった。


「分かった、分かった、分かった。

 だったら薬草を集めてきてくれるかい?

 余裕があったら食糧になる物も頼む」


「分かりました、ご主人様」


 ネロ爺さんも直ぐにポチを家に返すのを諦めた。

 簡単なお願いをいくつかして、それを達成してくれたら帰るように命じようと考え、ポチに薬草や食糧を集める事を命じた。

 だがポチの力はネロ爺さんの想像を軽く超えていた。

 ネロ爺さんでとても登れない急峻な崖に生えている、中級上の薬草を集めてきた。

 食糧も、ネロ爺さんではとても狩れない、ニホンカモシカを狩ってきた。


「おお、おお、おお。

 これは貴重なニホンカモシカではないか。

 角は鹿の鹿茸を超える精力剤になる。

 お殿様が高く買ってくれるぞ。

 気をつけて解体しないといけないな」


 ネロ爺さんは張り切ってニホンカモシカの解体を始めた。

 普通の鹿でも、上手く解体すれば薬の材料となる。

 まして今解体しているのはニホンカモシカだ。

 魔獣のように十倍とはいわないが、鹿の五倍の値段で買ってもらえる。

 

「ご主人様、食べられないのですか?」


「ありがとう。

 せっかくポチが狩ってくれた獲物だから食べたいのだが、ニホンカモシカはいい値段で売れるのだよ。

 これがあれば、少しは借金が返せるからね。

 ごめんね」


「いえ、そんな事は気にされないでください。

 ではご主人様が食べることができる獣を教えてください。

 直ぐに狩ってきます」

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