花咲か爺さんとポチの恋

第1話

 昔、ある所に心優しいお爺さんが住んでいました。

 あまりに心優しくお人好しなので、隣に住む意地悪爺さんに色々なモノを奪われていました。

 若い頃、相思相愛の恋人すら奪われそうになり、恋人は貞操を守るために、自害してしまっていました。


 それでも心優しいお爺さんは、人を傷つける事ができませんでした。

 意地悪爺さんに全てを奪われたお爺さんには、自分の山も畑もありません。

 生きていくには、奥山の更に奥深くにまで行って、共用の産物だけを収穫して、細々と暮らすしかありませんでした。

 この日も心優しいお爺さんは、奥山の更に奥深くにまで行きました。


「おい、大丈夫かい?

 意識はあるかい?」


 心優しいお爺さんは、崖の下に倒れているコボルトを見つけました。

 急いで声をかけましたが、意識がありません。

 心優しいお爺さんは、急いでコボルトの様子を見ました。

 即座に治療の必要があるか確認したのです。

 長年一人で奥山に入っている心優しいお爺さんは、応急処置の方法を会得しているのです。


 心優しいお爺さんの診立てでは、頭部を打って意識を失っているのと、全身の打撲、それに両脚と肋骨の骨折でした。

 内臓は損傷していないと分かり、心優しいお爺さんはホッとしました。

 このコボルトは両脚を犠牲にして、重要な部分を守ろうとしたのだと、心優しいお爺さんは考えました。


 心優しいお爺さんは、打撲に対する張り薬は諦めました。

 コボルトの豊かな毛並みでは、張り薬は意味がありません。

 それにコボルトは回復力が人間の数倍です。

 小さなケガよりは、重要なケガに対処すべきだと考えたのです。

 奥山での活動になれた心優しいお爺さんらしい対応でした。


 心優しいお爺さんは、コボルトの両脚に添え木をしました。

 自分の服を切り裂いて、コボルトの胸部を固定しました。

 貧しいお爺さんには、晒などを腹や下腿にまく余裕はないのです。

 身につけている麻の服を使うしか、コボルトを助ける方法がありません。


 胸部の固定は力加減が大切です。

 強すぎると息ができなくなりますし、骨端が肺に突き刺さってもいけません。

 幸い開放骨折ではないので、気胸になる事も内臓感染を起こす事もありません。

 心優しいお爺さんは、頭部を打っているかもしれないコボルトを、その場から動かそうとはしませんでした。

 その場に留まって、つきっきりで看病しました。


 ですが、奥山でも奥の奥です。

 朝晩の寒さは尋常ではありません。

 まして心優しいお爺さんは、上着を切り裂いてケガの治療に使っています。

 柴や枯木を集めて焚火をしましたが、年老いた心優しいお爺さんには、とても厳しい看病となりました。

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