第5話オリビア視点

 一瞬これで終わったと思いました。

 動きの悪いミイラでは、騎士や徒士に勝てるはずがありません。

 それでも、ジョージの逸物を噛み千切れたのです。

 十分復讐できたと思おうとしました。

 ですがダメでした。

 取り巻きどもはもちろん、オリバーになんの復讐もできていません。

 このまま消滅するのは絶対に嫌です!


 私は戦いましたが、やはり全然相手になりませんでした。

 滅多切り、滅多刺しにされてしまいました。

 幸いだったのは、全く痛みを感じなかったことです。

 これだけ斬られて刺された痛みを感じていたら、根性がくじけたと思います。


 それでもそれなりには戦えました。

 腕も足も、斬り離されない限りは動けるのです。

 幸いな事に、騎士や徒士も急いできたのでしょう。

 板金鎧で完全武装していませんでした。

 屋敷の中で務める時の服装で、剣だけ持って急いできたようです。

 だから服の上から可能な限り噛みつき爪を立てました。

 ですが四肢を斬り離されてはもう戦えません。


 そこで急いで自分の遺体に入り込みました。

 これ以上穢されるくらいなら、滅多斬り滅多刺しにされ、四肢を斬り離され、屍姦されないようにする方がいいと思ったのです。

 ですが、そうはなりませんでした。

 ミイラの身体とは全く違ったのです。


 私の遺体は、私が考えていた三倍の速さで動きました。

 私の遺体は、生前の五倍の力を発揮しました。

 女の細腕ですから、元の速さも力もしれていますが、ミイラにだけ集中していた騎士や徒士は、完全に不意を突かれたようです。


 彼らが茫然自失から立ち直ったのは、私が拾った短剣で七人の騎士や徒士の心臓を突き貫いた後でした。

 私は自分の遺体から出ました。

 私の遺体は、その場に崩れ落ちました。

 私は殺した騎士の身体に入りこんだのです。

 一番強そうに見えた騎士です。


 その後は無双状態でした。

 鍛え抜かれた騎士の身体が、元の三倍の速さと五倍の力を発揮するのです。

 残っている騎士や徒士に勝ち目などないのです。

 それに、操っている私には痛覚がありませんから、少々傷つけても、動きが鈍ることも恐怖で戦意を失う事もありません。

 ジョージの手先の遺体に配慮する気は全くありません。


 そして、これから殺せば殺すほど予備の遺体が手に入ります。

 この遺体が戦えなくなったら、他の遺体に入りこんで動かせばいいのです。

 でも少しだけ問題がありました。

 殺し方に気をつけなければいけないのです。

 後で使う事を考えたら、手足を斬り離してはいけません。

 できるだけ損傷させないように、心臓を一突きして殺さなければいけません。


「ギャァァァァアァアァアア!

 くるな、くるな、くるなぁ!

 私は主人だぞ!

 主人に剣を向けるとは何事だ!」


 あら、あら、あら、治療を受けているジョージに出くわしてしまいました。

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