第3話オリビア視点

 私は舌を噛み切って自殺した。

 痛く苦しかったが、今までの汚辱にまみれた状態、これから受けるはずだった恥と苦痛を考えれば、大したことではなかった。

 だが、死んだはずなのに、意識は保っていた。

 死んだ自分の姿を中空から見下ろしていた。


 これが神を否定し、自殺した結果なのかもしれないと思った。

 神を否定したから、神のもとに行くことがなく、こうして地上に漂っているのだと、妙に納得することができた。

 だがそれでよかった。

 人々を助けてくれいない神の国になど行きたいとは思わない。


 気になったのは自分の身体だった。

 私の遺体はどう扱われるのか気になった。

 オリバーの所に返されるのか?

 まあそれが普通だろう。

 事故や病気で死んだことにしても、遺体がなければ疑われる。

 だがあれほど傷だらけでは、私の家族に会わせるときに困る。

 何か事故を装うのだろう。


 だが私の考えは間違いだった。

 こいつらに人間の良心などかけらもなかったのだ。

 ロッキンガム侯爵は、いや、ジョージの糞野郎は、私の遺体を嬲ったのだ!

 自分たちが死に追い込んだ私に対する配慮など全くなく、屍姦という最低最悪の喜びに下卑た笑いを浮かべていた。


 私はあまりの怒りに我を忘れた!

 その場にあるモノを見て回り、なにか武器になるモノを探した。

 ジョージが脱ぎ捨てた服に短剣があるのに気がついた。

 私はそれでジョージを刺し殺してやろうと考えた。

 だが、哀しい事に、死んだ私には短剣を持つことができなかった。


 歯ぎしりする想いだが、この時に動ける事が分かった。

 とてもではないが、自分の亡骸が犯されるのを見ていられない。

 私は地下牢を逃げ出した。

 逃げ出しながら、ジョージたちへの報復方法を考えた。

 なにも持てないが、動けるのだ。

 他にも何かできるかもしれない。


 私は身体がない。

 だからスケルトンやゾンビではない。

 霊体の状態だから、レイスやファントム、リッチーといった存在だろう。

 でも私ごときが、強力だと聞いている、レイスやリッチーだとは思えない。

 ファントムか名前も付けられてない弱い存在だと思う。

 だがそうなると、屋敷に縛られてここから動けない可能性が高い。


 ずっとジョージたちを見ているのは、いえ、彼らがこれからも行うであろう悪行をを見続けるのは嫌なので、急いで屋敷から出られるか確かめようとした。

 確かめようとして思い出した。

 アンデットが光に弱い事を。

 慌てて屋敷から出るの思いとどまった。


 最悪光にあたって消滅できるのなら、それはそれで楽だ。

 だがこうして意識があって身体に囚われないのなら、なにか復讐できるかもしれないのだ。

 今はその方法を考える時だ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る