第17話

「これ以上団長に近づくな!」


「黙れ!

 ダンジョンならともかく、町で盾役に後れを取る俺ではないわ!」


 いけません!

 口論だけならともかく、実際に剣を抜くのはご法度です。

 これを見逃したら団の統制がとれなくなります。

 仕方ありません。

 かわいそうな気もしますが、ジューリオを殺しましょう。

 そうしなければ私が団長を続けることができなくなってしまいます。


「うっぐっ!」


 一瞬の事でした。

 私でも、わずかな動きを眼が捕らえただけです。

 反応して対処しろと言われても、絶対に無理です。

 毎日マンツーマンで訓練をつけてもらっているのにです。

 まだまだ手加減してもらっているのは分かっていましたが、ここまで実力がかけ離れているのです。

 それに、この動きが全力だとも言い切れません。

 アンゲリカの全力はどれほどのモノなのでしょうか?


 そうです、アンゲリカです。

 アンゲリカが背後からジューリオを刺し殺したのです。

 今確認しましたが、ジューリオの板金鎧が背後から貫かれています。

 ですが、前面に剣は突き出ていません。

 剣も抜かれていません。

 背後から刺されたままです。

 恐らく、酒場を血で汚さないために、傷を極力小さくして、剣も抜かないのです。


「あああああ!

 俺の剣だ!

 いつ抜かれたんだ?!」


 この国に来てから加わった男性冒険者が騒いでいます。

 私も今初めて気がつきました。

 アンゲリカは自分の剣を使わず、新人の剣を使ったのでしょう。

 理由はわかりませんが、必要な事だったのでしょう。

 アンゲリカのやることには、いつも理由がありますから。


「騒ぐな!

 味方に剣を向けた者は殺す!

 これは団の鉄則だ!

 この鉄則があり、厳守されているからこそ、我々は安心して狩りができるのだ。

 仲間に背中を預けられるのだ!

 鉄則は団長と副団長の私が必ず護る。

 団員の命は団長と副団長の私が必ず護る。

 だから慌てる必要などない!」


「そうよ!

 何の心配もいらないわ!

 私とアンゲリカがいる限り、みなの命は守って見せるわ」


 アンゲリカの意を感じて、私は強く宣言しました。

 今はこの言葉が最適だと思います。

 これで今まで以上に団は結束が強まるはずです。


(団長。

 ヘプバーン王国の密偵がこちらを見ています。

 かなりの使い手です。

 隙を見せたら襲い掛かってきます。

 ジューリオはその密偵に籠絡されていたかもしれません。

 ですがこれは秘密です。

 団員が動揺してしまいます)


 アンゲリカが私にだけ聞こえる小声で教えてくれます。

 私は心臓を氷の手で握られたような痛みと冷気を感じました。

 アンゲリカが心配するほどの刺客が近くにまで来ている!

 命懸けで一緒に逃げてきた団員が籠絡されるような状況。

 恐怖で震えそうになってしまいました!

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