第10話

「ああ、オードリー!

 僕だよ、アントニオだよ!

 君のことが忘れられなくて、ここまで追ってきたよ。

 どうか僕の所に帰ってきてくれ!」


 なにを言っているのですか?

 もうグレイスに手を出しているのに、よくそんな事を言えますね。

 一体何を考えているのでしょうか?


「何をしている!

 こんな場所に一国の王太子殿下が来られるわけがないであろう!

 魔獣や魔族が幻覚を見せている可能性が強い!

 臨戦態勢を崩すな!」


 アンゲリカが皆に激を飛ばしています。

 確かにその通りです。

 油断して迂闊に近づいたら、殺されてしまうかもしれません。

 絶対に油断してはいけないのです!

 ですが、本物だった場合には、不敬罪を適用されてしまうかもしれません。


「無礼な!

 冒険者の分際で、王太子殿下に対し奉り、不敬にもほどかある!

 成敗してくれるからその場になおれ!」


「そら、分かったろ!

 こうやって我々を抵抗できないようにして殺すつもりなんだ。

 狡賢い魔族らしいやり方だ。

 よく覚え得ておきな。

 魔族を相手にした場合は、こういう手を使ってくるんだ。

 そのつもりで戦うんだよ」


「「「「「はい!」」」」」


 一触即発の状態です。

 これは覚悟を決めた方がいいでしょう。

 私にとってどちらが大切なのか。

 そんな事は考えるまでもないことです。

 五回も私を裏切り死に追い詰めた王太子よりも、アンゲリカの方が大切です!


「全責任は私がとります!

 向こうが攻撃すると思ったら、遠慮せずに攻撃しなさい!

 そのためにこちらから先に攻撃を仕掛けたように見えても構いません!

 後からダンジョンに入ってきて、他のパーティーの背後をとるなど、騙し討ちしようとしている以外ありません!

 断じて引いてはいけません!」


「「「「「はい!」」」」」


「おのれ、おのれ、おのれ!

 顔を大ケガして婚約を辞退した者を、王太子殿下のお慈悲で婚約者にしてやろうというのに、何たる暴言。

 もう許すことなどありませんよ、王太子殿下。

 この場で成敗してやりましょう」


 王太子の近衛騎士長でしかた?

 言いたい放題ですね。


「仕方ありませんね。

 側妃として形だけ結婚して、狩りで稼いでもらおうと思っていたのですが、ここまで嫌われているのでは仕方ありませんね。

 妹に私を取られたのがそんなに悔しかったのですかね?

 心が狭いことです。。

 今まで稼いだものだけでも頂くことにしましょうか」


 なるほど、そういう考えでしたか。

 でもよく口に出してくれました。

 お陰で何の遠慮も必要なくなりました。

 この場で叩き殺してあげます。

 隠蔽方法は殺してから考えればいいことです。

 問題は、王家王国でも最強といわれる近衛騎士百騎に勝てるかどうかです。

 

 

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