第11話

 私の心配など杞憂でした。

 アンゲリカの強さは隔絶していました。

 王国最強と称えられた近衛騎士を、子供のようにあしらい叩きのめしています。

 いえ、一刀両断にしています。

「竜殺し」の異名に偽りなしです。


「ヒィィィィイ!

 ゆるして、ゆるして、許してくれ。

 余ではない、余ではないのだ。

 考えたのはグレイスなのだ。

 悪いのはグレイスなのだ。

 全部グレイスが考えたことなのだ。

 だから余は許してくれ!」


 王太子の姿がとても情けなく目につきますが、口にしたことの方が重大です。

 ……信じたくはないですが、真実なのでしょう。

 過去五度の野垂れ死にも、王太子を籠絡したグレイスが口添えしていれば、起こらなかったことです。

 わかっていましたが、分かりたくなかったことです。

 真実から眼を背けていたことです。


「問答無用!」


 アンゲリカが何の躊躇もせずに王太子を殺しました。

 頭から股に剣を縦に振り下ろし、まさに一刀両断です。

 心から信用信頼していなければ、その強さに恐怖を感じる事でしょう。

 現に私以外の冒険者は、男女身分に関係なくガタガタと震えています。

 王太子は数に入りませんが、国内最強の近衛騎士百騎を、たった一人で皆殺しにしてしまうのですから……


「ありがとう、アンゲリカ。

 お陰で命拾いしたわ」


「まだでございます、団長。

 団長を護るのが団員の務めでございます。

 我らが主は団長だけです。

 王太子であろうと国王であろうと、我らの主ではありません。

 分かってるのか!」


 アンゲリカが震え続ける団員に渇を入れます。


「「「「「はい!」」」」」


「ここで終わっては団長の命を護れません。

 私に全て任せていただけますか?

 団長は知らなかったことにしてくださればいいのです」


 グレイスを殺して禍根を断ってくれるのでしょう。

 王太子殺しも含め、全ての罪を一身で受けるつもりなのですね。

 私のためにそこまでしてくれるつもりなのですね。

 忠誠を受けるだけでは主の資格はありません。

 忠誠に報いてこその主です。


「いえ、全責任は団長である私が受けることです。

 王太子が私を殺そうとしたから返り討ちにした。

 そう届ければいいだけです。

 それでも罰を与えるというのなら、この国から出てくだけです。

 アンゲリカがついてきてくれるのなら、何の心配もありません。

 グレイスはこの手で殺します。

 もう見過ごしにはできません。

 可愛い妹ではありますが、放っておくと、団員まで傷つき殺されてしまうかもしれません」


 私の言葉を聞いて、アンゲリカが満面の笑みを浮かべてくれています。

 本当に魅力的な笑顔ですね。

 アンゲリカが男ならよかったのに。

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