第4話

「御姉様、本当に王太子殿下との婚約を解消されるおつもりですの?」


 グレイスが探るような目で私に聞いてきます。

 どうやら過去五度の婚約破棄追放は、グレイスの仕業だったようです。

 哀しいですが、この程度の姉妹関係だったのですね。


「ええ、本気よ。

 堅苦しい王宮の生活など私には無理よ。

 その事はグレイスにもわかるでしょう。

 それにこの手を見てよ、ゴツゴツしていてタコだらけよ。

 とても貴婦人の手ではないわ」


 グレイスが汚いモノでも見るように私の手を見ます。

 思はず張り倒してやりたくなりましたが、自重しました。

 殺す決断ができなければ、喧嘩はしない方がいいです。

 私が思っていた以上に、グレイスは陰険残虐な性格なようです。

 逆恨みして何をやってくるか想像するのも怖いです。


「そうですわね。

 その手で社交界にでるのは難しいと思われますわ。

 でも、だったら、これからどうなさいますの?」


「父上に相談して領地を分与していただくか、冒険者にでもなるわ。

 風のように自由に生きるのが私の望みよ」


 グレイスの眼が鋭く光ったように見えます。

 まるで人間を獲物と認識した時の魔獣のようです。


「だったら、私が王太子殿下の婚約者になってもよろしいのかしら?」


「いいと思うわよ。

 父上に相談してからでないと、高位貴族から眼の敵にされるし、下手をすれば刺客が送られてくるかもしれないから、根回しは大切よ?

 それは大丈夫なの?」


 嫌な表情をしますね。

 姉の私に対して、勝ち誇ったような表情はいけません。

 実力差が分かっているのでしょうか?

 私を本気で怒らせたら、この場で殺されるのですよ?

 グレイスのような女は、人間の本質を本能的に見切っているのかもしれませんね。

 私がグレイスを殺す気がないのを理解しているのでしょう。


「私の魅力にかかれば、王太子殿下などイチコロですわ。

 今迄は御姉様が婚約者でしたから遠慮していただけですわ。

 相手が御姉様以外でしたら、とうの昔に蹴落として差し上げいましたわ」


 これがこの子の本心なのでしょうね。

 今迄我慢していたことが、この子の私への愛情だったのでしょう。

 何とも身勝手な愛情ですが、この程度が貴族家姉妹の愛情ともいえます。

 家督を巡り、嫁ぎ先を巡り、争い殺しあうのが貴族家の宿命なのかもしれません。


「そうね。

 グレイスの魅力ならそれくらいは簡単でしょうね。

 王太子殿下との婚約解消を先に進めていいの?

 でもそうなったら、高位貴族が権力と武力を使って本格的に動くわよ。

 私との婚約は表向き維持したまま、王太子殿下を籠絡する?」


 あ、嫌な表情をしましたね。

 さっきの言葉は嘘ですね。

 もう王太子は落としているのですね。

 これからの段取りはどうするつもりなのでしょう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る