第3話

「オードリー御嬢様、一人で前に出過ぎては駄目です。

 戦友と肩を並べるようにして戦ってください。

 ああ、それもいけません。

 互いの武器の間合いには気を付けてください。

 同士討ちほど愚かな事はありませんよ」


 アンゲリカが的確な指示を出してくれます。

 その指示通りに動くと、面白いように魔獣を斃すことができます。

 今回狩った魔獣の売却額だけでも、ポルワース伯爵家にとっても馬鹿にならない額になります。

 まして戦闘侍女達にとっては大金でしょう。


「前衛、次列と入れ替わって休憩。

 後衛も予備列と入れ替わって休憩」


 今回のダンジョン訓練は、普通の冒険者とは違って大人数によるものです。

 戦闘侍女達には扶持と呼ばれる十分な給与が払われています。

 命を懸けて無理な狩りをする必要などありません。

 狩れる獲物の数と、養わなければいけない家族の人数。

 それを考えてギリギリの人数でパーティーを組む必要がないのです。


 そもそもが私に実戦経験を積ませるために訓練が最優先なのです。

 私を護ることが大前提なのです。

 収入のために危険を冒す必要などありません。

 危険と経験を天秤にかけて、安全を優先して撤退することが大前提なのです。


 私にとっては宝石のように貴重な経験です。

 狙う魔獣によって違う属性の武器に持ち替える事。

 剣や槍などの武器を使い分ける事。

 仲間の力量や編成によって、自分の役割を前衛の戦闘職と後衛の魔法職に変える事を、徹底的に学ばせてもらいました。


 一日だけの事ではありません。

 半年もの間、毎日ダンジョンにこもって実戦訓練を繰り返しました。

 徐々にダンジョンの奥深くにまで入り込めるようになりました。

 最初は渋い顔をしていた父上も家臣も、今では笑顔で送り出してくれます。

 それはそうでしょう。

 一日で狩れる魔獣の売却益だけでも、ポルワース伯爵家の家計を助けるのです。

 微禄の家臣たちにとっては、数十年分の年収に匹敵するのです。


 半年の間に、アンゲリカがダンジョン狩りを身体に叩き込んでくれました。

 頭で理解するだけではなく、本能で反応できるくらいに叩いこんでくれたのです。

 本当に助かりました。

 これでいつでも家から逃げ出すことができます。


 ですが不思議な事があります。

 王太子が私に刺客を放ってこないのです。

 過去五回の前世の経験から、必ず刺客を放ってくると思っていたのですが、大きく流れが変わってしまったのでしょうか?

 それとも、まさかとは思いますが、全てを主導していたのは、妹のグレイスだったのでしょうか?

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