第8話

 騎士の装備は強固だった。

 フィオナ嬢のパンチでは傷一つつける事ができなかった。

 それでも最初は愉しそうに騎士のフルアーマープレートを叩いていた。

 だが、あまりに何の変化もない上に、騎士達は集団で覆いかぶさり、フィオナ嬢を捕まえようとする。


 フィオナ嬢は飽きてきた。

 本気で戦う気など全くないフィオナ嬢には、パンチしても変化のない騎士は遊び相手としては失格だった。

 フィオナ嬢は飛び跳ねて騎士の捕縛から逃れようとした。

 その際騎士がドタバタと転倒したのだ。


 その姿がフィオナ嬢にはとても面白く見えた。

 そうなるとギリギリまで引きつけて、転倒するように動いた。

 時にはバランスを崩した背中を蹴り、不安定になった頭を蹴る。

 股の間を通り抜けでひっくり返らせる。

 あげた足にパンチを当ててひっくり返らせる。


 新しい遊びを思いついたフィオナ嬢は躍動した。

 今までの事を忘れて、騎士達を翻弄する事に夢中になった。

 半殺しにした王太子の事など忘れてしまっていた。

 目端の利いた騎士が、王太子を助けて会場から逃げ出したのに気がつかなかった。

 まあ気が付いていても興味を引かれなかっただろう。


 会場には増援の騎士が集まっていた。

 失態を挽回したい者に加えて、手柄を立てたい者も集まっていた。

 彼らは真剣にフィオナ嬢を捕えようとしていた。

 生きて捕えられなければ、斬り殺してでも確保しようとしていた。

 だから中には剣を振り回す騎士もいた。

 だが、フィオナ嬢にはかすりもしなかった。


 フィオナ嬢を殺す心算で振った剣が味方を傷つける事もあった。

 だが情けない話なのだが、フルアーマープレートを斬り裂けるような、腕の立つ騎士など一騎もいない。

 しかし衝撃で脳震盪をさせたり、打撲傷を与えたりすることはできた。

 同士討ちを繰り返し、多くの騎士が倒れ動かなくなっていった。


 時に煌びやかな近衛騎士や親衛騎士の装備を整えた者もいた。

 その煌びやかな装備は、フィオナ嬢の眼を釘付けにした。

 フィオナ嬢は飛び跳ね蹴り体当たりをして、煌びやかな騎士達を翻弄した。

 騎士達が疲労困憊となり、ピクリとも動かなくなるまで、愉しそうにしていた。

 だが一騎の騎士も動かなくなると、興味を失ってしまった。


 腐り果てた王家王国の貴族士族は、恥をかかないように会場に近づかなかった。

 最初にいた騎士や、事情を知らず駆けつけてしまった騎士以外は、理由をつけて逃げ出していた。

 新しい遊び相手が現れなくなったフィオナ嬢は、御腹が空いたのに気がついた。

 二人に侍女が用意してくれているであろう御馳走を思い浮かべ、急いで屋敷に帰っていった。

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