第9話

「殺せ!

 絶対殺すのだ!

 余を愚弄したものを許すな!」


 王太子は生き延びていた。

 王家秘蔵の回復薬を使うことで、瀕死の状態から回復していた。

 だが、ズタズタになった前腕を完全に元通りにはできなかった。

 皮だけがつながっていた右手は、手首から先がなくなっていた。

 右前腕も橈骨と尺骨に分かれて、二つに裂けてたままだった。

 傷口は乾き回復したが、橈骨と尺骨についたわずかな肉に皮が張り、血管と神経がつながっただけだった。

 王太子は醜く変わり果てた自分の右腕を見て怒りと屈辱に震えていた。


「王宮の騎士だけでは手ぬるい。

 正規騎士団を動員しろ!

 投入できる限りの兵士を使って襲うのだ!

 ぜったに逃がすんじゃない!

 逃がしたらお前を八つ裂きにしてくれる!」


「ヒィィィィ!

 すぐに!

 必ず捕らえてまいります!」


 王太子が新たに側に置いた貴族が、逃げるように出て行った。

 いままで側近としていた下劣な貴族は、大半がフィオナ嬢の遊びの犠牲になって死んでしまっていた。

 フィオナ嬢は一緒の愉しく遊んだつもりだったが、何の訓練もしていない側近達には致命傷となる攻撃だった。


 王太子が新たに側近に選んだのは、元の側近ほどではないが下劣な性格の貴族子弟だった。

 元の貴族より爵位が低く、王太子の目に留まらなかった者や、頭が悪く的確な阿諛追従ができなかった者たちだ。


 そんなモノたちであっても、側に誰もいないのは今の王太子には不安だった。

 一人になると、フィオナ嬢に襲われた時の恐怖と痛みが鮮明によみがえるのだ。

 絶対に逆らえない下級貴族を側に置き、殴る蹴るの暴行を加え、泣いて許しを請う姿を見て、ようやく恐怖を紛らわすことができていた。


「王太子殿下。

 今回は災難でございましたね」


「誰だ?!

 なんだ、ウルスラか。

 いったい何の用だ?

 サリバンノアの遺体なら届けさせたはずだぞ?

 恨み言や苦情なら、ベウィッケ伯爵家のフィオナに言え!」


「いえいえ、そのような無駄なことは致しません。

 それよりも殿下の御不興を御慰めするほうが大切です。

 サリバンノアの代わりとなる者を用意いたしますので、好みはございますか?」


「サリバンノアの代わりの者だと?

 ではフィオナを連れてこい。

 ずっとそばに置くとは言わん。

 余の気が晴れるまで嬲り者にしてくれる!」


「それは王国の騎士団や歩兵団がやり遂げてくれますでしょう?

 私どもが手出しする必要はございません。

 それよりもフィオナ嬢を手に入れた後で、十二分に愉しむための愛妾が必要なのではありませんか?」


「ふむ、それもそうだな。

 どんな女を送ってくれるのだ?

 そのほうの娘か?」


「どのような女でも、おこのみ通りの娘を送らせていただきます。

 皆私の養女で、幼いころから手塩にかけて仕込んでおります」


「ほう、それは楽しみだ!」

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