第4話
マキシミリアンが怒声をあげて近衛騎士を止めようとした時、信じられないモノがその眼に映った!
フルアーマープレートを装備し、重厚な剣を佩いた近衛騎士の壁を、軽々と跳び越えるフィオナ嬢がいた!
幼い頃から騎士になるための厳しい鍛錬を重ねてきたマキシミリアンだ。
十三にして従騎士の資格を得て、十五で正式な騎士の資格を得た。
それから今日までの三年間、辺境で幾度も死線を越えてきた。
弱冠十八歳とはいえ、金で資格を買った王都の偽騎士とは玉石の差があるのだ。
だからこそ、人の限界は身に染みて分かっている。
人の限界を知っているからこそ、魔獣と相対しても生きて戻ってこれるのだ。
そのマキシミリアンから見て、今のフィオナ嬢の身のこなしは、人の領域を遥かに超えている。
マキシミリアンは怒声を呑み込んだ。
自分が全てを投げ打つ必要はないかもしれないと思った。
いや、そうではない。
あまりにも鮮やかなフィオナ嬢の姿に魅せられてしまったのだ。
もっと見てみたい。
心からそういう思いが沸き上がり、ただフィオナ嬢の姿を眼で追っていた。
フィオナ嬢の動きは変幻自在だった。
最初は宙高く跳んで近衛騎士の壁を跳び越えたが、その後はまたボウォと佇んでいるだけだった。
逸早く立ち直った近衛騎士の一人が、フィオナ嬢を背後から抱き捕えようとしたが、どう動いたのか動体視力に優れたマキシミリアンにも捕えられないうちに、近衛騎士の手の届かない位置に移動していた。
「な!
この野郎、馬鹿にしやがって!」
幼い女の子相手に、意味の通じない怒声をあげて、近衛騎士が再度フィオナ嬢に襲い掛かったが、またしてもスルリと逃げられてしまった。
「えぇぇぇぇい、何をしている!
全員で捕えろ!
さぼっている奴は降格にするぞ!」
呆然自失から立ち直った王太子は、怒声をあげて近衛騎士にフィオナ嬢を捕えるように再度命じた。
その命令を受けて、固まっていた近衛騎士だけでなく、王太子の側を護っていた近衛騎士も、出入り口を厳重に護っていた近衛騎士も、持ち場を離れてフィオナ嬢を捕えるようとした。
近衛騎士にあるまじき失態だ。
どこで誰が王太子を狙っているか分からないのだ。
側を離れる事も、出入り口を無人にする事も、刺客に暗殺の隙を与えることになるから、普通は何があってもやらない。
だが、王太子の近衛兵は別だった。
王太子の愚かな命令を優先しなければ、虐めの標的にされる。
殴られ蹴られる程度なら我慢できるが、家を潰され一族が奴隷に落とされるとなれば、その命令を本当は商人の娘が下したのだと悟っていても、知らない振りをして屈辱を呑み込まなければならなかったのだ。
そんな日常の果てに、今日只今の情けない情景となる。
近衛騎士が怒声をあげてフィオナ嬢を負い回し、フィオナ嬢が楽しげに逃げ回り、宮廷貴族が巻き込まれて悲鳴をあげて右往左往していたが、いつの間にか誰も気がつかないうちに、フィオナ嬢が王太子の横に立っていた。
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