第3話

 王太子の近衛騎士達は暗い欲望に満たされていた。

 これまでも王太子や側近貴族達のおこぼれに預かってきた。

 側近貴族達が欲望を満たした後で、ボロボロになった貴族令嬢を下げ渡してもらい、おもうがままに責め苛んだ。

 数日後になるのか数十日後になるのかは分からないが、眼の前にいる幼い貴族令嬢を嬲り者にできると思うと、劣情が高まり満足に歩けなくなってしまう。


 その代わり、王国騎士ともあろう者が、いくら多国間大商人であろうと、平民の手先となって汚れ仕事をしなくてはいけなくなった。

 内心腹立たしい思いもあったが、余得もあるので表立って文句も言えない。

 いや、裏で陰口を叩いていた騎士が、背信背任をとわれ、家を潰され奴隷に落とされていた。

 その騎士の一族の女子供は、王太子、側近貴族達、俺達に散々嬲り者にされ、今ではマネー家の奴隷売春婦にされている。

 六人の元王太子婚約者貴族令嬢と同じように。


 権力に逆らえば馬鹿を見るだけだった。

 相手が平民だろうと、王太子に上手く取り入る事ができたら、王太子と同じ権力を手にする事ができる。

 どれだけ理不尽で腹立たしくても、それを口にする事は許されない。

 精々腹の中で毒づくだけだ。

 もし口にしようものなら、暗い欲望に落ちた同僚騎士に売られて終わりだった。

 この騎士が長年の友を裏切り売ったように。


 多くの王太子近衛騎士が、歩き難そうにフィオナに近づいて行った。

 それでもフィオナの表情は全くかわななかった。

 それどころか、またも大きなあくびをした。

 それを見た王太子近衛騎士は、気を飲まれて足が止まってしまった。

 一瞬舞踏会場の音が止まった。


 モウブレー侯爵家の長男で騎士のマキシミリアンには、この静寂と間が人生の転機となった。

 王太子の下劣な所業を耳にしていたマキシミリアンは、王太子や側近貴族達に近寄らないようにしていた。

 騎士として、そのような行為に加担したくなかったからだ。 

 だが今回だけは、そういかなくなってしまった。


 辺境の独立貴族だったベウィッケ伯爵家は、辺境警備を役目とするモウブレー侯爵家の管轄になってしまう。

 王太子や王国の口約束では、辺境を預かるのは新たに辺境伯か侯爵に任じられるベウィッケ伯爵家なのだが、実際には罠に嵌めた上で誰かが攻め取らなければならない。


 今までは下劣な罠に加担せずに済んでいたのだが、今回は逃げられなかった。

 辺境警備を任されていたモウブレー侯爵家が、一番損害の多いベウィッケ伯爵家討伐を命じられることになってしまった。

 利益は全てマネー家と王太子のモノになり、負担と損害だけが押し付けられる。

 せめて見苦しい婚約破棄劇からは逃げたいと思ったのに、王太子直々に招待状が来ては、断る事ができなかった。

 泥水を啜ろ思いで、家のための家臣領民のためと、下劣な言動を見てみぬ振りして来たが、もう、我慢の限界に来ていた。

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