第84話 残された全て

「大丈夫かい?ヒタカ」


柔らかい身体に支えられる。

これは……華田?


「ごめんね、ヒタカ。キミを悲しませたくは無かったんだけれど……いや、これは後付けの感情だね。ドゥーアーとしての僕は、何の感情も、何の欲も……何も無かった。僕を取り込んで……僕自身になった。そして、後悔した……でも……」


目を開ける。

華田が、泣いている。


「でもさ、僕も、最後に夢を見たかったんだ。ずっとキミの傍に居たかった……のに……その場所には、いつの間にか、他の人が居た。だけど……少しの間で良い、キミの傍に居たかったんだ」


「ハナ……俺は……」


「その先は言わないでね。名残惜しくなるから。大丈夫、キミの愛しい人はちゃんと助ける。これは、僕の贖罪でもあるんだから」


ハナは、俺を見て、マリア姫を見て、エメラルドを見て。


「さて。災厄がどういう存在か……もう、分かっているよね?女神様に命じられ、世界を滅ぼす役目を負った者……でもさ、任務の放棄は認められているんだ」


ハナは、天を仰ぐと、


「神よ!古の約定に従い、我が嘆願を聞き給え!災厄ドゥーアーは、役目を放棄する!我が身、滅びて、灰燼と化せ!」


待つ事数瞬。

数瞬。

ややあって。


ハナは青い顔で、


「……ごめん……ヒタカ……あの糞女神に、拒否された」


何……だと……


「拒否、なのじゃ?」


「うん……五千年の間に、僕が、ドゥーアーが変質してしまったから、崩壊の権利も行使できない、と……五千年前の僕に戻るか、実体化されて攻撃が通じる存在になるか……どちらかしか、死ぬ方法が無い……」


くすり


エメラルドは微笑むと、


「大丈夫ですよ」


お?


「駄目だよ、エメラルド姫」


エメラルドは小首を振ると、


「私が死ぬ、それで全て丸く収まります」


「なっ?!」


エメラルドはハナを見て、


「ハナダさん。ホダカの事は宜しく御願いします。あ、世界も救って下さいね」


「エメラルド姫……」

「エメラルドよ……」


そんな……


<称号『何杯でもいけますね』を獲得しました[1]>


何か……何か……無いのか……


<称号『クラッカーなら有りますよ?キャビアやフォアグラも用意してあります』を獲得しました[1]>


……


「なあ、ハナ。死の宣告、お前は解除できないんだったか?」


「うん……ごめん……災厄である僕は、災厄である限り、その現象を消去できない」


「ハナ、お前は存在が不定だから、何かに変えようとしているんだよな?」


「うん。原初の災厄に戻れば、リタイアできると思う。もしくは、実体化できれば、自殺できるよ」


……なら。


「ハナ……お前は、ハナだ」


ジッ


禁忌・存在壊変


ハナの周囲に力が収束……そして……


「……キミは……何をしたんだい……?」


ハナが目を見開く。


そして。


エメラルドの頭上のカウントダウンが……消えた。


そこにいるのは、災厄のドゥーアーではなく。

俺の親友、ハナなのだから。


「驚いたな。僕は、僕自身になったようだ……」


「むぅ……ホダカ殿の、いつもの何か良く分からない凄い事なのじゃ?」


何だよそれ。


「え、私、助かったんですか?」


こくり


俺、アリア姫、ハナが頷く。


「エメラルド姫、さっきの話。世界を救うのは、協力するよ。もう、殆ど力は残っていないけれどね」


それはむしろ足手纏いなのでは。

以前のハナと同じ力という事か?


「僕の力と、マリア姫の力、エメラルド姫の力を合わせた力に、変身能力とコピー、死の宣告、集団催眠能力……それが僕に残された全て」


「殆ど残っているのじゃ?!」


俺の姿を真似ていたようだが、俺の力はコピーできていないらしい。

姿を見せる事、とか条件が有るのだろうか。


「ヒタカの事は、エメラルド姫、キミに任せるよ。ヒタカも、エメラルド姫の事が好きみたいだし……ヒタカは複数の女性を同時に愛せるほど、器用ではないしね」


ぐさ。


「たださ、今糞女神に約束して貰った。ヒタカが元の世界に戻って、元の生活を始める時……ドゥーアーとしての僕は滅び、元の僕の魂、元の僕の身体で、向こうの世界に戻る……そう約束したよ。だから、この世界での人生は、エメラルド姫に任せるけれど……向こうの世界では、僕はヒタカにまた告白するよ」


なら。


「いや。それなら、俺から告白させて貰うよ」


ぼっ


ハナが赤くなる。

くそ……多分、俺も赤い。


「何故か、今の僕の記憶も継承してくれるらしい……不要とは言ったんだけどね。魂も肉体も、全て華田はなだ花蓮かれん本人……それは保証するよ」


さて……


色々やってくれたな、システム。

人の不幸は楽しめたか?


<称号『はい、お陰様で』を獲得しました[1]>


やっぱりお前は……相棒なんかじゃない。

あんたが、女神なのか?


<称号『え』を獲得しました[1]>


え、じゃない。

明らかに、俺が悲しんでいるのを、みんなが悲しんでいるのを、楽しんでいたよな?

この世界を創って、人々を、俺達を、苦しめている……それは、お前だな?


<称号『はっ』を獲得しました[1]>


ん?


<称号『大変です』を獲得しました[1]>


どうした?


<称号『実は称号って、あの女神のやつも、勝手に授与できるんです』を獲得しました[1]>


ん?


<称号『私の知らない所で、勝手に称号を与えていたようですね……』を獲得しました[1]>


え。


<称号『火鷹の言っている事が時々分からない事があったのですが……なるほど、そういう事ですか』を獲得しました[1]>


……人が悲しんでいる時に、優雅にワインを飲んで楽しんでいたのは……?


<称号『女神でしょうね……私はただただおろおろしつつ……何とか手助けできないか、色々悩んでいたんです。お役にたてずすみません』を獲得しました[1]>


いや……良いんだ。

結局、お前に昔貰ったスキルが役に立ったしな。


<称号『はい、良かったです!女神の奴の目を盗んで、予め付与しておいたんです!良く気付いてくれました!』を獲得しました[1]>


おお。

準備が良いな。

流石、相棒だ。


<称号『フフフフフフフフ』を獲得しました[1]>


さて。

時間が動き出すのを待って……今夜くらい、ゆっくり宿屋に泊まろう。

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