第72話 全知全能の存在
「裁きよ!」
マリア姫の全力魔法。
こっそり詠唱していたのか。
それを、パイロが無造作に出した対抗魔法で、消失させる。
「マリアよ。今そなたが不意打ちを仕掛けるのは、儂は知っておった。故に、お主は不意打ちをしておらぬ」
ん?
「儂は、近しい未来を識っておる。儂の不意を突けるとは思わぬ事だ」
「な……?!」
エメラルド姫が絶句する。
「全知全能の存在、それが儂じゃ」
……おい。
全然強そうじゃ無いのに、普通に強そうなんだが?
「お前の弱点を知る王族を殺したから、安泰って訳か」
「それは誤解じゃ、勇者よ。儂に弱点なぞ無い」
え。
「ふむ……せっかく、儂の用意した結末を抜けてきたのじゃ。冥土の土産をやろう……いや、この場合、異世界不思議体験のお土産、玉手箱といったところじゃな」
座れ。
パイロはその場に座ると、手でそう指し示す。
逆らっても仕方がない。
その場に腰をおろす。
「そうさの……まず、この世界は、何故あると思う?」
おかしな問いだ。
「世界は、ただあるもの。そこに生きる者は、ただ生きている。そこに理由なんて要らない」
俺の答えに、パイロは頷くと、
「そう。まずは理解しているようじゃな。この世界は、悲劇を鑑賞する為の箱庭。そして勇者よ、そなたはこの世界を鑑賞し、愉しみ、そして元の世界で長く味わう……その為に招かれたのじゃ」
無茶苦茶な事を言う。
筋が通っているのが困る。
というか、あの糞女神なら普通にやりそうだ。
「え、このじじい、何言ってるんですか」
エメラルドが半眼で呻く。
「勇者よ、そなたは幾つ災厄を潰しても良かった。だが、全部潰されても困る。その為の安全装置、それが儂じゃ。言わば、地雷カードじゃな。それを引くまでは何枚でもクリアできても……それを引いてしまえば、そこで終わる」
パイロは、とつとつと語る。
「そうじゃな……お主に一番楽しんで貰えるのは……こういうのはどうじゃ?お主等、全員で、好きなだけ儂を攻撃する。儂には一切通じ無い。その後、そう……マリアを殺す。その後は、エメラルドを殺す。最後に勇者、お主を殺す。その後で、この世界を破壊する。どうかの?」
俺は、体中から力が抜けていくのを感じた。
その淡々と語る内容は、一切の誇張を感じない。
ただの真実に聞こえた。
「いくら未来が読めても、同時に攻撃すれば……限界がある筈!」
エメラルドが叫ぶが、
「……俺達全員が、全力で攻撃しても……相手がもろにそれを受けても……傷つけられない気がする」
弱音。
それを聞いたパイロが、
「正解じゃ、勇者。儂の防御力が高すぎて、お主等がいくら攻撃しても、ダメージは発生せぬ」
ふざけるな。
「ホダカ殿……諦めるのかの?」
「いや、一応試させては貰うさ……」
俺は、パイロを睨み付けた。
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