第71話 兎より強い?

ともかく……


「出るぞ」


俺はそう言うと、扉に近づき。


カチリ


扉の鍵を開けた。

罠解除スキルは、かなり鍛えてある。

この程度の鍵なら、解除できたようだ。


エメラルドとマリアは、顔を見合わすと。

こくり。

何かポーションを飲んだ。

何を飲んだ?


冷静な声音で、


「ホダカ、先を急ぎましょうか」


そう告げた。


--


「何と言うことを……」


扉を抜け、城を探索。

一際魔力が濃い場所を目指し。


そこにいたのは……無数の顔がついた、肉塊……。

顔の目は閉じられ、口がもごもご動いて何かを喋っている。


「マリア姫、あれが何か分かるのか?」


「はい、ホダカ殿。あれは魔口……人間を素材に造る魔導兵器で、魔法を行使させる事が可能なのじゃ。ただ、造られた技術が人外の技術、素材にした人間が規格外の為、同等に扱って良いのか微妙なのじゃが……」


マリア姫は、肉塊に近付くと、


「この国の王族達なのじゃ。おそらく、パイロがやったのじゃろう」


マリア姫が、顔を近づけ、


「詠唱は……召喚術なのじゃ。これが、この国で突如、魔物達が出現するようになったカラクリ……」


国を護るべき王族達を素材として、国民を苦しめる兵器を造った訳か。

いつもの災厄の悪行だな。


「安らかに眠るが良いのじゃ」


マリア姫の魔法が発動。

王族達の成れの果てを、強烈な光が瞬間的に焼き尽くした。

苦しむ間も無かっただろう。


さて……パイロは何処だ?

マップには表示されていないが……


「ほう」


部屋に響く声。


ぼさぼさの紅い髪、虚ろな目、病弱そうな身体……

強さの欠片も感じられない……そんな青年。


「おもちゃが潰されたから来てみたら、これは驚いた。いや、実に驚いた」


淡々と、告げる。


「お前は誰だ?」


予想が付きつつも、尋ねる。

男は、残念そうに、


「興醒めな台詞をするではない。儂の名が分からぬ訳ではあるまい?」


尋ねる。

マップには表示されていないが、やはりコイツは……災厄、パイロ。


「お前がパイロですね!貴方の仕掛けた罠も、魔導兵器も、もう有りません。観念なさい!」


エメラルドが告げる。


「それは誠に有り得ぬ事だ。勇者よ、そなたがアレから逃れる筈が無かったのじゃが」


パイロが本を取り出し、パラパラとめくると、訝しげに閉じる。


「くだらない仕掛けをしやがって……」


どんなセンスだよ。


「ふむ。脱出不可能な部屋、空間収納の食料も尽き、後は共食いするしか無い飢餓の状況……もしくは、自害するか……何にせよ、それなりの結末は迎えられる筈……」


いや、普通に出口あったしな。


「王族の皆の無念、晴らさせて貰うのじゃ!」


マリア姫が叫び。


「まず、訂正したいのだが……貴様達が破壊して勝ち誇っている、そのおもちゃ……当然、ソレが喚び出す存在より、儂の方が遥かに強い。というか、召喚死と名乗っておるが、召喚はむしろ苦手でな」


「……神魔級の魔物より遥かに強いだと……」


「いやいや、流石に神魔級の存在は召喚できぬぞ」


あれ。

最初の兎は。

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